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【RENTAL EVENT】鏡像生命香プロジェクト Mirror Life Project -Smell of a New Life-


【展示について】

  鏡像生命研究とは、現在の自然界とは分子構造が鏡写しに逆転した生命システムを人工的に再現する試みである。我々人間を含む地球上の生命は、基本的に左手型のアミノ酸と右巻きのDNA二重螺旋から構成されている。しかし、合成生物学の進展により、2025年現在、鏡写しのDNA(左巻き)を複製する「鏡像ポリメラーゼ」や、鏡像タンパク質を合成するリボソームの研究が急速に進んでいる。これらが統合された時、自然界には存在しない「鏡像生命(Mirror Life)」が誕生する。それは、生命起源の謎を解く鍵となるだけでなく、既存のウイルスや分解酵素が作用しないため、永遠に腐敗しない素材や、革新的な医薬品への応用が期待されている。

 一方で、この技術は存亡のリスクを孕んでいる。2024年12月、欧米の有力生物学者38名が『Science』誌上で緊急声明を発表し、鏡像生命研究の即時停止を呼びかけた。彼らが懸念するのは「究極のパンデミック」である。鏡像生命体は、自然界の免疫系や捕食者にとって「鍵穴の合わない」存在であり、認識されることなくすり抜け、制御不能な増殖を引き起こす可能性がある。これは、既存の生態系を不可逆的に書き換える「究極の外来種」となりうる。この勧告は、賢明な倫理的防波堤なのか、あるいは国家間の技術覇権を巡る駆け引きなのか。科学者たちの間でも、この「科学の死」たりうる警告の受け入れの是非や、受け入れたとしても境界線はどこでどのように引くのか、などの議論が継続している。本展示ではこの議論の記録の一部を動画で公開する。

 原子力、遺伝子編集、AIなど、過去の歴史が示すように、人類が一度手にした「大いなる力」の前で立ち止まることは、競争原理の中で極めて困難である。もはやブレーキの設置が非現実的であるならば、我々はハンドルをどのように切るべきか。誰がその法的・倫理的枠組みを設計するのか。本プロジェクトは、この未知の技術のもつ科学的崇高さと惑星的危機の共存というジレンマを、科学者でない一般の人が身体的に、感覚的に思考するための「補助線」として構想する。

 視覚的には区別のつかない鏡像世界を、我々はどう感知できるのか。その鍵は「嗅覚」にある。人間の嗅覚受容体は、鍵と鍵穴のように化学物質の立体構造(キラリティ)を識別する能力を持つ。今回は予算や安全性などの制約下、手に入るかぎりの薬品で100年後に実体化するかもしれない「鏡像生命レモン」と「鏡像生命菊」、そして現在の倫理観では決して制作不可能な「鏡像生命人間」の体臭を現在の化学知見に基づいて再構成する鏡像香シミュレーションに挑戦する。

*来場注意*

本展示は、香りおよび光の演出を使用しています。香りや光が苦手な方は、ご来場の際にご注意ください。

(PROFILE)

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長谷川愛 / Ai Hasegawa

アーティスト。バイオアートやスペキュラティヴ・デザイン等の手法によって、生物学的課題や科学技術の進歩をモチーフに、現代社会に潜む諸問題を掘り出す作品を発表している。 IAMAS、RCA、MIT Media Lab卒。2023年度から慶應義塾大学理工学部准教授。MoMA、森美術館、上海当代艺术馆、国立女性美術館(NMWA)、アルスエレクトロニカなど、国内外で多数展示。著書に「20XX年の革命家になるには」

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