(INTERVIEW)
【INTERVIEW】新工芸舎「新工芸舎新作予約販売会2024夏」
現代の表現者が日本文化と出会い直し、自らの表現と伝統を結びつけることで、「未来のオーセンティック」を生み出す実験場(ラボ)として立ち上がったSHUTL。2023年10月のオープンから多種多様なアーティスト/クリエイターの方々と、新しい表現やカルチャーを発信しています。
今回は、2024年6月28日(金)〜7月14日(日)の期間に【新工芸舎新作予約販売会2024夏】を開催する、新工芸舎の三田地博史さんにインタビューを行い、新工芸舎が生まれた経緯やこれまでの取り組み、そしてSHUTLでの展示について、お話を伺いました。
インタビュアー:株式会社マガザン 黒田純平、武田真彦
新工芸舎が生まれた経緯
では、新工芸舎の自己紹介をお願いします。
三田地:新工芸舎を主宰する、三田地博史です。
私たち新工芸舎は、3Dプリンタを使って様々なものづくりを行っています。主に日用品を中心に制作していますが、日用品といえども、よりアーティスティックなものや、量産品では手に入らないようなデザインのものなど、幅広い制作を行っています。
新工芸舎の特徴としては、メンバーが元々デザイナーであるということと、「樹脂」という素材でものをつくる3Dプリンターを取り扱っていることから、「設計」から「生産」まで全て自分たちの工房で行っている点にあります。
今まで樹脂は大量生産のなかでしか存在し得なかった素材なのですが、3Dプリンタが生まれたことによって、一つ屋根の下の工房で少量の樹脂製品の「設計」から「生産」まで行うことが可能になりました。
このような状況で、私たちは工芸的な規模感で樹脂製品を作ることができると考えていることから、「新工芸」という言葉を掲げて活動をしています。
新工芸舎
ありがとうございます。では、新工芸舎を始めた経緯を教えていただけますか?
三田地:新工芸舎を始める前、私は京都の大学でデザインを専攻し、卒業後に大きな企業でインハウスデザイナーとして働いていました。そもそも3Dプリンタで制作を始めたのは大学時代で、その大学で私が初めて3Dプリンタを持ち込んで、自分の作品をたくさん作っては、SNSや動画サイトに作品動画をアップしてたくさんの反応をもらっていました。自分のクリエイティビティを世間に発表して、いろんな方に楽しんでもらえたという経験から、ある種の「全能感」を感じた、とても楽しい思い出があったんです。
もしかしたらこのまま自分の作品を販売していけば就職しなくても良いんじゃないか。そんなことをうっすらと考えていたのですが、「まず一旦は社会のレールには乗ってみよう」と思い、大きな企業に入りました。
大企業に所属していれば、自分のアイデアを大きなパワーでもって世の中に発表する機会があるのではないかと期待していたのですが、実際は社会のスタンダードなルールの中で小さな歯車の一つになっていることに気づき、虚しさを覚えました。また、無思考的になっていく周囲の同期などを見ていると、とても恐ろしく感じてしまったんです。
世界に対して、どんなに小さくても自分たちの「確かなこと」「訳がわかること」を積み上げていきたい。そのような営みを、私自身が魅力と可能性を感じる3Dプリンタで実現したい。その想いが原動力となり、大企業での仕事を辞め、現在の活動に至っています。
一から素材を知っていて、作り方も知っている、自分が制作する全てにおいて「訳がわかる」。そういった視点からも、私たちにとって3Dプリンタでの制作は、横文字の「デザイン」よりは、「工芸」と呼ぶことがふさわしいのではないかと考えています。
大学院時代に制作した3Dプリンタで立体地図を作り、 GPSと連動させて立体地図上に現在位置を知ることができるデバイス。
背景を伺うと、「新工芸」という言葉に込められた想いをより強く理解できますね。新工芸舎を立ち上げてからこれまで、どんな活動をされてきたかをご紹介ください。
三田地:そうですね、大きくは2つの活動の軸があると考えています。
ひとつは、新工芸舎としての作品の制作です。自分たちが作りたいと思うものを制作して、展示会を定期的に開催しながら新しい作品を発表する。そのようなことを繰り返しています。
もうひとつとして、樹脂は産業の中での素材であるので、企業や研究機関からの依頼を受けての制作も行っています。
ダイハツのコンセプトカー「me:MO」。新工芸舎が制作に関わり、3Dプリンタをつかったカスタムパーツ、デコレーションの提案を行った。
三田地:そのような活動のなかで、「新工芸」という文脈を自分たちの中だけで留めておくのではなく、広く伝えていきたいと考えています。そこで新しい運動としてつくったのが、京都・亀岡にある店舗「新工芸店」です。
というのは、自分たちのようにプロダクトデザイナーでものづくりの好きな人が、3Dプリンターを手に入れて面白いものを作り始めている例が他にも多くあるため、それらがまとまった形で見れる場所にするのが面白いんじゃないかと思うからです。
「新工芸店」では、自分たちのものだけではなく、3Dプリンタで作られた国内外の作品をセレクトして販売しています。そのなかには、デザインデータをもらい、こちらで制作しているものもあります。この取り組みは、3Dプリンタならではだと思いますね。
新工芸店
「新工芸舎新作予約販売会2024夏」について
SHUTLで開催する「新工芸舎新作予約販売会2024夏」ではどのような作品を展開するか教えてください。
三田地:まずは、新工芸舎の作品のなかでこれまでメイン商品として展開してきた「tilde(チルダ)」というシリーズです。
一般的な樹脂製品は表面がツルッとしているのですが、3Dプリンタでつくられるものには、樹脂が重なって生まれるザラザラとした積層痕が細かく入り、今まではその積層痕ゆえに、販売する製品としてはどうも見えないと思っていました。
そこで発想を転換し、例えば畳や布製品のように、樹脂を「繊維である」と捉え、積層の幅を広げた繊維らしいデザインを施すことによって質感のあるプロダクトができるのではないかと思いつき、このシリーズが生まれました。
今までは「できるだけ表面をツルッとさせたい」というアイデアのせいで、積層を細かくしていたために生産時間とクオリティが反比例する形になっていましたが、積層の厚みをグンと広げることによって生産時間短縮と独特の風合いを生み出すことに成功しました。
私たちが使っているFDM 3Dプリンタという技術や樹脂という素材に対して最適解を導いたという点で、「tilde(チルダ)」は、産業の近代化のなかで製品をより作りやすく・より多く・より安く生産するために発展したモダニズム・デザインの文脈に沿ったコンセプトを持っています。
今回の展示では、「tilde(チルダ)」のポータブルライトを新商品として発表します。
tilde(チルダ) PortableLight U
三田地:次の作品は、「Anomalo(アノマロ)」シリーズ。多種多様な生物が生まれた時代として知られるカンブリア紀に生息していたアノマロカリスから名前をとったシリーズです。
このシリーズの製品は、見るからに非合理的で、ほっといたら絶滅しそうな奇妙な姿をしたプロダクトがあってもいいのではないかという思いから制作しました。
高度経済成長期のものづくりが盛んだった時代を振り返ると、個性的なデザインの製品が多く見られます。そのなかで個性の強いデザインや機能は淘汰され、万人受けしないものは生産されなくなり、よりシンプルなプロダクトが残っていった。その様子は、まるで環境に順応しない生物が絶滅して、限られた種が生き残っている世界のように感じます。
しかし、3Dプリンタのある世界では、作家やアーティストが自由に描く個性を表現でき、ラジオや時計のような家電の量産品のなかにも多様性を取り戻すことができるのではないか。そう考えて制作したのが、「アノマロ」シリーズです。このシリーズからは、ラジオと時計の2点を発表します。
Anomalo(アノマロ)Clock
Anomalo(アノマロ)Radio
三田地:そして最後は、「M600」シリーズです。このシリーズは、装飾するという行為の可能性を再び考え直してみたいという思いから制作しました。
前近代〜近代〜現代に向かうにつれて装飾は廃されていき、例えばヨーロッパの貴族の家具にみられる装飾も、一般の家庭に広げていくためにできるだけ安くて手間のかからない現代のデザインになりました。
そこに「待った!」をかけるのが、この「M600」シリーズです。
3Dプリンタでは最初のデザイン作りと設計さえ頑張れば、あとはボタンを押すだけで手間とコストはかからないため、装飾があっても良いのではないかと考えました。3Dプリンタにおけるデザインをもう一度考え直すと、「装飾」というものを見直しても良いのではないか、というのが最近の私のマインドになっています。なので今回、一度装飾まみれのものを出したいと考えており、小引き出しとスツールを実験的に展開します。
M600 Stool
M600 Chest
SHUTLの「伝統と現代の新たな接続方法を生み出す実験場」というコンセプトや、黒川紀章のカプセルとその空間に呼応するかたちで、「有り得たかもしれない過去」という新しい特別展示を行っていただきますが、この展示に込めた想いをお聞かせください。
三田地:「有り得たかもしれない過去」の展示は、竣工当時の内装が復元されているオリジナルカプセル内で行おうと考えています。
私が大学時代に慣れ親しんだ3Dプリンタは、「オープンソース」という誰でも機械の設計図にアクセスでき、そのデータさえあればホームセンターで部品を集めてプリンターを作ることができるものだったんです。そして3Dプリンタに必要な部品を3Dプリンタでつくり、さらに3Dプリンタをつくる、という無限増殖ができるというコンセプトがありました。2016年ごろに出てきたこのコンセプトのことを「レップラップ (RepRap)」といいます。
ではなぜ2016年までそのコンセプトが広がらなかったかといいますと、3Dプリンタは特許で押さえられていたからでした。その特許はアメリカの企業が持っていたのですが、実は3Dプリンタの原理となる技術は1978年に日本人が発明したものだったんです。発明した人が所属していた会社がその発明に価値があると思わなかったため、特許化しなかった。そのうちにアメリカの企業に特許を取られてしまったというわけです。かつて3Dプリンタは1000万円以上するものが普通でした。
それが特許の期限が切れ、RepRapのような活動が始まることによって価格が下がっていき、今は安いもので1台5-6万円です。
もし1978年のその当時、発明した日本人が情報をみんなにばら撒き、公知のものになっていたら、そもそもアメリカの企業は特許として押さえられなくなり、かなり早い時点で3Dプリンタが普及したかもしれない。そして中銀カプセルタワービルも竣工したのは1970年代ですので、もしかしたら違った過去として、1970年代や80年代にカプセルのなかで3Dプリンタを使ったものづくりをする人が現れたかもしれない。そしてその人たちは、どんなものを作ったのだろうか。有り得たかもしれない過去をリアルに感じる、そんな展示にしたいと考えています。
3Dプリンタの業界に入ってくる20代のデザイナーもよく見かけるようになりましたが、オープンソースの精神によって支えられた3Dプリンタ黎明期の雰囲気も徐々に忘れられてきているのかなと思っています。今回の展示ではその歴史について知るきっかけにしてもらいたいですね。
最後に、今回の展覧会に向けてお伝えしたいことはありますか?
三田地:SHUTLの展示に向け、SHUTLに関わる多様な文化の方と出会いたいというモチベーションがあるので、正直今回はかなり力が入っています!
展示会などで3Dプリンタの業界の方々から評価をいただくことが増えてきましたが、その多くはテクニックを評価していただいています。しかし、本来私たちが伝えたいことやモチベーションはそのような技術面だけではなく、3Dプリンタを通じて主体的にものづくりができることや、自己表現の中でプロダクトデザインができることを伝えたいのです。
また、3Dプリンタでの作品制作における陶芸・工芸的な感覚とその可能性を伝えていきたいですね。私たちはいつも伝統工芸へのリスペクトを持っていて、長年の技術の蓄積は本当に素晴らしいと感じています。しかしその一方で、守られ続ける技術があることにより、工芸の形を決めつけてしまっているという視点もあるかと思います。
私たちは一工芸家として、どのような素材や機械を使っているかに関係なく、日々ものづくりと向き合いながら試行錯誤を繰り返し続けていきたいと考えていますし、その姿勢を少しでも共有できると嬉しく思います。
そして、展示にきてくださるSHUTLの来場者とぜひ議論したいですし、期間中にトークも開催する予定です。ぜひ楽しみにいらしてください!
ありがとうございました!
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