(INTERVIEW)
【INTERVIEW】タムラサトル 個展「レイという青いワニはまわるのに60秒かかる ジョージという白いワニはまわるのに30秒かかる」

タムラサトル 個展「レイという青いワニはまわるのに60秒かかる ジョージという白いワニはまわるのに30秒かかる」が、2025年5月15日〜5月25日にSHUTLにて開催中です。国立新美術館での大規模個展から約3年。東銀座にてタムラさんの代表作のひとつであるシリーズ作品「まわるワニ」の大規模インスタレーション《スピンクロコダイル・ガーデン》を、約3年ぶりに公開します。タムラさんのこれまでの活動や、ワニが回るダイナミックな空間についてお話をうかがいました。
インタビュー:黒田純平(株式会社マガザン)
作家活動の変遷について
アーティスト タムラサトルさんの、主な活動領域について教えてください。
タムラ:動きの要素を持つ彫刻やインスタレーションを中心に、制作・発表しています。
展示は国内外いろいろありますが、国内が中心になります。
数は少ないですが、いくつか映像作品もあります。
これまでの活動で思い入れのあるものを、いくつかお聞かせください。
タムラ:「まわるワニ」は、初期から現在まで制作を続けていますが、学生時代に作家になるということを意識した作品でもあるので、思い入れは強烈にあります。ちなみに、今回展示しているビリジアンの5mのワニは、1994年大学3年時の「電気を使った芸術装置をつくりなさい」という課題で制作したものです。

撮影:山根香
2001年に制作した、「Double Mountain」の制作によって、今のコンセプトがより明確に見えてきました。山に最も登らなさそうなものは何か、それは山自身だ! という発想から制作しました。
直近では、2024年「プラザノース開館15周年記念展 Domain of Art 32 タムラサトル Hi, Kumi. Hi, Mike.」 プラザノース ノースギャラリー(埼玉)で、発表した「 Hi, Kumi. Hi, Mike.になります。
中学1年の1英語の教科書(NEW HOIZON/東京書籍)20ページの会話文に、 Hi, Kumi. Hi, Mike.というセンテンスがあります。授業中、Kumiではない誰かとMikeではない誰かが、お互いをKumi Mike と呼び合うという不思議な教室の風景が記憶に残っていました。それをそのまま彫刻にしてみたんです。

Hi, Kumi. Hi, Mike. #2 / さいたま市 プラザノース 2024年 / 撮影:金田幸三

Hi, Kumi. Hi, Mike. #2 / さいたま市 プラザノース 2024年 / 撮影:金田幸三
約30年間、動く作品(キネティック)を作り続けてきたのですが、そこから離れたというのも大きいですね。
今回の展示や作品について
約3年ぶりの《スピンクロコダイル・ガーデン》の展示となりますが、どのような内容になりましたか?
タムラ:前回《スピンクロコダイル・ガーデン》を展示した国立新美術館「ワニがまわる タムラサトル」展では、あの広い空間をどうやって埋めていくかという考え方でした。今回はどのように新たなSHUTLの空間に配置していくか、具体的にはワニの高低差を細かく調整する必要性がありました。
国立新美術館の展示のために制作した1000体の小さなワニには、それぞれ名前があります。造形的なオリジナリティが小さいため、名付けるという手法を用いて、異なるベクトルで作品の強度を高めたのです。

スピンクロコダイル・ガーデン / 国立新美術館 2022年 / 撮影:金田幸三
「レイという青いワニはまわるのに60秒かかる ジョージという白いワニはまわるのに30秒かかる」
という展示タイトルをつけることによって、1000体の小さなワニはそれぞれ名前を持っているという事実を、 声を大にして言いたかった。TEZUKAYAMA GALLERYとMAKI Galleryが制作したカタログを見て確認してほしい。

左から、レイ、ジョージ / 撮影:山根香
今回の企画を担当されているディレクターの黒田さんにもタムラさんを起用した経緯などもお伺いできれば幸いです。
黒田:中銀カプセルタワービルのカプセルがSHUTLに設置されていることの文脈や、そのカプセルが持つ権威性が、作品の見え方そのものにどのような影響を与えるのか 、私はずっとその問いを抱えてきました。しかし、その「象徴」はあるとき突然ギャラリーから、一時的にではありますが、取り除かれました。空虚となったその場に立ったとき、私はふと「ここからこそ始められる」と感じたのです。がらんどうの空間は、むしろ強度のある起点になり得る、と。
かつて意味が重ねられていたその場所で、あえて「意味の破壊」を掲げるタムラサトル氏の《まわるワニ》を、ただ回す。くるくると、問いかけるように、しかし答えぬまま。「なぜ?どうして?」と翻弄される私たちは、そのユーモアと不条理の中に、SHUTLというプロジェクトの未来が、これまでとは異なる、どこか面白い方向へと進む兆しを見出すのかもと期待もこめて、オファーさせていただきました。
タムラさんの作品には、ユーモアや機械的な仕掛けが多く見られます。それらに込めた意図やテーマを教えてください。
タムラ:そのモチーフや素材が持つであろう意味を台無しにしてしまうように作っています。
存在理由から逃走するというか、もしくは破壊するというか。
しかも、それは重々しく仰々しくではなく、軽々とやりたい。
それが、ユーモアなのかもしれないですね。
機械は、ネジ一つ緩んだだけで、あるいはパーツの位置が1cm変わるだけで動かなくなり、作品として成立しないという物理的なシビアさがあります。
発想は軽くてあいまいそして適当なのですが、制作は理路整然とを行なければならないという矛盾が面白いのかもしれない。
SHUTLに関して
今回REOPENのこけら落としとしての企画で出展いただきましたが、改めてSHUTLの空間や東銀座のエリアで感じられたことを教えてください。
タムラ:大きなガラス面があることで外からのアプローチが容易であることにはメリット・デメリットがありますが、今回の展示ではそれがうまくいっていると思いました。
銀座のギャラリーでは何度か展示した経験があります。
東銀座はより落ち着いたイメージがありましたが、思っていた通りでした。
俳優をやっている大学の後輩が、偶然、新橋演舞場に出演していまして、ちょくちょく寄ってくれるのですが、これもまた東銀座。
最後に、来場されるお客様へのメッセージがあればお願いします。
タムラ:いったい何を見ているのだろう いったいあれはなんなのだろう と思えるようなものを作りたいですね。知識を広げていけばいずれ知ることになるものではない、知り得ないものを作れたとき、僕は最高にうれしい。その時、皆さんには「なんだこれ」と言って笑ってほしいのです。
(PROFILE)
タムラサトル / Satoru Tamura
現代美術家
1972年栃木県生まれ。1995年筑波大学芸術専門学群総合造形卒業。現在、日本大学芸術学部デザイン学科非常勤講師、武蔵野美術大学造形学部彫刻学科非常勤講師。
「まわるワニ」、「後退するクマ」、「登山する山」、「粉々にくだけるプラスチックモデル」、「最終的に燃える洗濯機」、「バタバタ音を立てる布」、「端数がない重量の彫刻」、「開放的なスイッチ」、「動き続ける図形もしくは文字」、「10回たたく装置」、「空間を最大限に使用しただけインスタレーション」 「中1英語の引っかかるセンテンスを彫刻にする」 などを制作・発表。
photo by Kozo KANEDA
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