(INTERVIEW)
【INTERVIEW】 夜行個展「あっちからきました」

現在、SHUTLでは夜行個展「あっちからきました」を開催中です。SHUTLの空間を泳ぐぬいぐるみたちは、どんな背景をもつのでしょうか。夜行のブランドオーナー佐藤穂波さんに夜行の世界観や、本展の魅力についてお伺いしました。
インタビュー:黒田純平(株式会社マガザン)
作家活動の変遷について
佐藤穂波(夜行)さんの、自己紹介と主な活動領域について教えてください。
佐藤穂波 (以降 佐藤):青森県弘前市出身です。武蔵野美術大学造形学部建築学科卒業後、社会人経験を経て2016年よりフリーランスとして活動しています。
ぬいぐるみ製作を中心としながら、イラスト・漫画製作なども行ってきました。
近年はより大きなものを作りたいという思いから、立体造形作家・画家としても活動を始めました。
「夜行」の活動はいつから始められましたか?
佐藤:2017年ごろからです。
夜行の1つ目のぬいぐるみはYETI(adult)、YETI(subadult)、YETI(juvenile)でした。
adultは手足が動くようになったり、subadultは使用している布が変わったりとそれぞれ変化してきましたが、juvenileは初期から同じ布・同じ型紙です。ただ、目の手刺繍や顔の刈り込みのクオリティが初期と現在ではかなり違うと思います。

撮影:山根香
「夜行」の世界観について
現在活動されている「夜行」には、様々なキャラクターたちがいます。特にイエティたちの物語を感じるのですが、「夜行」の世界観について教えてください。
佐藤:イエティは未確認生命体です。わたしはそれらを人々の見間違いだったり、脳のバグだったり、噂話が膨らんでいったことによって少しずつ形成されたものだと考えています。
イエティについて、わたしは大きなゴリラが雪山の環境に適応するために長い毛を持ったものなのではないかと勝手に考えました。そのため、夜行のイエティの原型はゴリラを参考にしています。そのように夜行のぬいぐるみたちの形は、イメージから連想された現実の生物を参考にしています。
逆に夜行のイエティたちの生態、物語に関しては野生生物を参考にしていません。
何となく社会に馴染めないような気持ちがありつつも、相手も自分も平等な一個人たちだと落ち着き、自分なりに楽しんで暮らしていく、それぞれの「普通」がイエティをはじめとする夜行たちの物語です。
夜行のイエティたちはよく、人間を真似て生活をしてみては、人間への理解を深めようと試みています。冊子「夜行図鑑 #1イエティ」にはその様子が描かれています。
余談ですが、夜行のぬいぐるみは名前も楽しいのでぜひそこも楽しんでいただきたいです。
夜行のイエティやねずみにはオーソドックスな灰色のほかに、albino とt+albino がいます。tはチロシナーゼというメラニン色素を生成するのに必要な物質のことで、それがあると少しだけ黒い色素を作ることができるため、赤い目の個体をt-アルビノや単にアルビノ、黒い目の個体をt+アルビノと呼ぶそうです。そのような生物の分類において使われる用語を使って現実味を出そうという試みが一つあります。
一方で、灰色の蛇を「Fog snake」、 黒い熊を「midnight teddy bear」、白い熊を「noon bear」、色から連想された名前をつけて遊びを加えることもあります。色々とたのしい名前をつけているのですが、ぬいぐるみから連想されるイメージが一番大事な要素なので、つちのこはどうしても「つちのこ」で、今回の展示にはいないのですが海老のぬいぐるみは「おめでとう、えび先生」だったりします。

撮影:山根香


今回は絵も展示されていますね。絵の内容は魚たちがモチーフとして多いですが、この絵の内容についても教えてください。
佐藤:魚がモチーフなのは、今までの人生で一番よく見た生物で、一番直感的に表現したいことを表現できるからです。
わたしは人間を含むすべての生物に上下はないと感じています。
食べたり食べられたり、利益があったり損したり、被害を被ったり対立したりあると思いますが、それぞれの生き物が善く生きようとしているだけだと思っています。
魚のような見た目の人間でないものが、人間のように描かれることで、そういった考え方が表現できるのではないかと思い、制作していきました。

撮影:山根香
今回タイトルにもなった「あっち」とは、どんな場所ですか?
佐藤:「あっち」とは、隣の部屋であり、地球の裏側であり、景色を見ている時の自分の後ろ側のことです。もしかしたら、全く別の異世界のようなものと捉えていただいても良いと思います。ただ、自分が普段意識していない部分という意味で「あっち」とつけました。その「あっち」は、近いところであってもいいし、遠いところであってもいいと思います。

撮影:山根香
展示や作品たちについて
今回始めての大規模な個展をSHUTLで開催しました。展示も始まり、いまのお気持ちをお聞かせください。
佐藤:いつも、制作時間のほとんどを一人で黙々とぬいぐるみを作ったり小さな絵を描いたりすることに費やしてきました。
今回はじめて大きな会場で個展をさせていただけるということで、空間をつくることと、作品を魅力的に展示することだけを考えた結果、ぬいぐるみをたくさん天井から吊るして会場中を泳がせたい!という展示プランになりました。
図面を見ながら約120匹いれば良い空間ができると計算し、3ヶ月ほどかけてぬいぐるみを1匹ずつ仕上げました。そこまでも大変だったのですが、実際に設営作業が始まるとさらに大変で、ギャラリーの皆様やインストーラーさんや、自分の家族も総出で準備をして、本当にたくさんの方々に助けてもらいながらぬいぐるみたちを空間に解き放つことができました。
一人では絶対にできなかった、夢のような展示が完成して本当に嬉しいです。
なるべくたくさんの方にこの空間や、1匹1匹渾身のぬいぐるみたちを楽しんでいただきたいです。

撮影:山根香
夜行作品の中のぬいぐるみたちは、作家ご自身にとってどんな存在ですか?
佐藤:癒しです。製作過程も楽しいですし、出来上がってからも本当に可愛くて、たくさん並べて制作していると本当に癒されます。たまに目が合います。目があって「かわい~~!」と思っています。
ご来場される皆様に向けたメッセージをお願いします。
佐藤:ぬいぐるみたちが空調でゆらゆら揺れたりくるりと回ったりしていて、まさにぬいぐるみたちが空間を泳いでいるような展示になったと思います。その中を縫って歩くのは少し不思議でとても心地のよい体験だと思います。
夏の終わりに、ぜひ足を運んでいただけたらと思います。
これからの活動について
今後、挑戦してみたい素材や技法はありますか?
佐藤:とにかく大きなものをどんどん作りたいです。小さいものも勿論作り続けますが、これからの人生は平面も立体もできるかぎりたくさん大きなものを作っていきたいなと思っています。
いつか公共の場などに置かれるような大きなサイズの作品も制作できたらいいなと思っています。
あとぬいぐるみを動かしたいので、コマ撮りの映像もこれからもっと作ろうと思っています。
最後に、本展を通して、夜行たちからの伝言はありますか?
佐藤:夜行のぬいぐるみたちは、「きてね~!」と言っていました!

撮影:山根香
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佐藤穂波 / Honami Sato
夜行ブランドオーナー / 画家・造形作家
青森県弘前市出身、神奈川県在住。 画家・造形作家。
武蔵野美術大学造形学部建築学科卒業後、社会人経験を経て2016年独立。
2017年からぬいぐるみブランド『夜行』を開始。
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