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(REPORT)

【EVENT REPORT】あの空間・場所について 第一部 「ポストリミナルスペースを探る」

2026年3月22日(日)、Group Exhibition「あの空間・場所について」の締めくくりとなる特別企画「LIVE & TALK EVENT」を開催しました。
第一部のトーク「ポストリミナルスペースを探る」では、本展の発起人である微風ゾーン・アシアタに加え、廃墟探訪・終末観光のバックグラウンドを持つ SAKAI(iMood)をゲストに迎え「リミナルスペース」の受容がどのように変化してきたかを、具体的な空間の実例とともに探りました。「ノスタルジア・ユートピア」「アンビエント空間」「エトランゼ」「ポストヒューマン」「エキゾチカ」などの「ポストリミナルスペース」概念が提示され、それぞれを独自の座標軸に落とし込みながら、空間の持つ感情や行動との関係を体系的に整理し、さらに、微風ゾーンとアシアタがそれぞれ提唱する「微風ゾーン」と「EchoSpace」についても、同じ視点から考察が深められました。
本記事では、当日のトークの様子をお届けします。

<ライター>
EPOCALC

<登壇者>
ア:アシアタ
微:微風ゾーン(Tsudio Studio)
S:SAKAI (iMood)

<撮影>
海浜水族館

ア:本日、司会進行を進めます、アシアタと申します。よろしくお願いします。普段は街歩きをしながら写真を撮ったり、「EchoSpace」や「ポピー」など色々な概念を提唱したりしています。

微: 微風ゾーンです。いつもはTsudio Studioという名前でポップスを作っています。その活動とは別に「微風ゾーン」という名前のアンビエントプロジェクトの一環として写真を発表しています。その写真がだんだん面白くなってきた時、自分の中で「ポスト・リミナルスペース」というキーワードを思いついたんです。そのキーワードで一緒に展覧会をしたら面白そうな作家さんが何人かいるなという思いもあり、グループ展をしたらどうだろうと。そのアイデアをアシアタ君に話したら、快く「やりましょうよ」と言ってもらえて。前からお世話になっているSHUTLの黒田さんに二人で考えた企画を持っていったら、二つ返事で場所を提供してくださって。そういう経緯でこの場を用意できました。今日はすごく嬉しい日です。

ア:早速、本トークイベントの趣旨について簡単に説明させていただきます。インターネット美学に「リミナルスペース」というものがありますが、ホラーコンテンツの「The Backrooms(※)」などのインターネットカルチャーを源流に含んでおり、不安や恐怖が根底にあると考えています。

※The Backrooms:4chの書き込みに由来する都市伝説・ネットミーム。突如この世界から「落下」してしまい、誰もいない巨大で古びたオフィススペースに迷い込んでしまう……という内容。

これらが流行した2020年ごろから6年経った現在ですが、XなどのSNS上でリミナルスペースとして共有されている写真には我々がアップしているような恐怖心の薄れた空間であったり、「不気味の谷」的恐怖から逸脱しているものが見られます。つまり、「人々のリミナルスペースの捉え方が変わってきているんじゃないか…….」というのが今回の企画の趣旨です。なお、今回の展示ではこれらを「あの空間・場所」と呼び、4人の作家それぞれの解釈を示してきました。一方で、本トークイベントでは、それとはまた異なる視点で「リミナルスペースの受容の変化」に迫っていこうと思います。

ア:本トークイベントでは、廃墟探訪のバックグラウンドを持ち、現在はリミナルスペースを蒐集しているとある特別ゲストをお呼びしています。その方に様々な「ポスト・リミナルスペース」概念についてご紹介いただきます。
では、本日の特別ゲストをお招きいたします。SAKAIさんです。

S:iMoodのSAKAIと申します。私はもともと廃墟マニアでして、 2007年に『日本の廃墟』、2008年に『廃墟という名の産業遺産』などを編集・発行していました。

『廃墟という名の産業遺産』

僕は47都道府県すべてを回り、沖縄や瀬戸内海の無人島、離島の廃墟も探索していました。そんな僕が最終的にたどり着いた廃墟がこちらでして、知ってる人とかいますかね。

これは戦時中の日本最北にある廃工場、王子製紙敷香(しすか)工場です。ロシア・サハリン州ポロナイスクまで行って撮った写真でして、戦時中日本の領有下にあった樺太のソ連との国境近くの街に静かにありました。本当に廃墟に取り憑かれたように日本全国ぐるぐる回ってたんで、最終的にロシアまで行って廃墟を追い求めてたんですが、ここに来て「ちょっともういいかな」と思うようになり(笑)。これを以って僕の廃墟マニアの歴史が終わりました。

そして2011年から2022年にかけて、終末観光をテーマにしたインディーズマガジン「八画文化会館」を発行することになります。

終末観光とは、時代や地域から置き去りにされ、保存されることなく人知れず消えていく建物や施設の希少性や独自性を見て回ることで、天寿を全うする寸前の状態(いわゆる終末期)を背景を含めて楽しむことでした。具体的には、ストリップ劇場、グランドキャバレー、秘宝館、屋上遊園地、大型観光ホテル、パチンコ、地方の商店街などを取り上げてきました。その象徴的な例として、 1枚写真をお見せします。

こちらが奈良市にあったボウリング場・アスカボウル。確か金曜日の夜 7時ぐらいに行って、ご覧の通り。ほんの30分前にカップルが1組だけいたんですけど、そのカップルがいなくなったら誰も人がいないっていう風景です。この感じが、どことなく今のリミナルスペースに通じるものがあると思ってます。そして約10年間続けた八画文化会館ですが、2022年6月の発行をもって活動を休止しました。
そして次の活動のヒントを探すため、以前から興味があった大型商業施設における終末観光的な魅力について考え、地方都市や都内を巡り続けていました。その頃にSNSでTsudio Studio(微風ゾーン)さん、アシアタさんを僕の方からフォローし、ちょっと目をかけていただけるようになり、そして今日のイベントに参加させていただく運びとなりました。

ア:ありがとうございます。この領域で我々なんかよりも長くやっている大御所の方をお呼びすることができ、とても嬉しいです。今回、SAKAIさんからは、幾つかの「ポスト・リミナルスペース」概念をご紹介していただきます。その後、私と微風ゾーンさんがそれぞれ提唱する「Echo Space」や「微風ゾーン」も考察していきます。

ポスト・リミナルスペースを分類する

ポスト・リミナルスペース分類マップ

ア:今回のイベントではこちらの図をご用意しております。これから紹介いただく「ポスト・リミナルスペース」概念を図に落とし込んで可視化し、原義の「リミナルスペース」との差異から体系的に整理をしていこうと思います。
こちらの図、縦軸・横軸に色々と言葉が並んでいるんですけども……。

S:今回講演するにあたって、何か図があったほうが分かりやすいということで設けました。
横軸は行動についての座標になっています。左に行くほど行動を抑制し、右に行くほど行動を促します。
一番左に関しては無能力、脱労働。建設的・生産的な行動を回避して、自らを廃棄物のように感じる。
縦軸は感情や感覚についてで、上に行くほど明るくポジティブなイメージ。
下に行くほどダークでネガティブなものになります。

一つお断りしたいのが、この図表自体考えを解説するための図解というよりは、座標軸、メモリの単語も含め、今から未知なる世界を探るための一つの思考実験の補助として使っていければと考えています。

ア:リミナルスペースにはネットカルチャー・建築・美学と様々な視点があるので、「これがポスト・リミナルスペースの全てだ」と我々が言うつもりはなくてですね。ここにいる3人の考え方の補助の意味合いですので、悪しからず。

S:まずは一番基本となる「リミナルスペース」についてお話しします。これを現実で見つけようとした場合、日本でいえばここなんじゃないかと思うのが、京成電鉄の東成田駅と成田空港第二ビル駅をつなぐ地下通路です。

フィルムアート社から出ている『リミナルスペース 新しい恐怖の美学』の第一章の一番初めに東成田駅の広場が出てくるんですけど、その広場からつながっている通路です。全長約 500メートル。人通りがほとんどないので、すごく不気味というか、不安になる空間です。

ア:私も昔 YouTubeの動画で見たことがあるんですけど、元々成田空港へのアクセスって京成線しかなく、後になってから近いJR線ができてから使われなくなったんですよね。一応成田空港の最寄り駅ではあるんですけども、全く人がいない。
ちなみに、この写真に写っている走っている人って…….?

S:夜の10時ぐらいに一人で行ったら、中学生ぐらいの少年が後ろから走って僕を追い去って…….不謹慎なんですけど、幽霊なのかもしれない(笑)。人が住むような場所でもなければ、中学生が遊ぶような場所でもないので…….。

微:自分がもしこの場所にいて、突然、後ろから人が走って来たら、むちゃくちゃビビります。

S:本当に怖いですよ!この500メートルを歩いてる間、彼にしかすれ違わなかったので。

微:リミナルスペースって、不思議な緊張感のある場所だから、普段だったらちょっとしたことでもドラマティックに感覚を刺激される、というのは特徴的ですね。

S:そうなんです。いやあ本当に…….怖かったですね(笑)。

S:続きまして、こちらが JR岐阜駅北口すぐにあるグランパレビル。

1974年に竣工されたビルでして、かつてホテルやアパレル系のテナントが営業していました。
現在再開発事業により解体工事中です。岐阜駅前は服や生地を扱う繊維問屋街になっているんですが、価格競争の激化・国内の若年労働者不足及び高齢化などで衰退してしまいました。
かつて栄華を極めた地場産業が衰退しているとき、リミナル化するのかなと僕は思ってまして。というのも、地場産業ではエリア一体で支配的・権威的となる企業が多く、そうすると意匠も高級志向になり、他人数を収容する大きな空間もできる。そこが少しずつ寂れていくと、人の不在が目立つわけです。
その意味でいくとリミナルスペースは特に産業が衰退している地方都市にこそ見られる現象なのかなと思い、この岐阜の例を出してみました。


ア:ビジュアル面からのコメントなんですが、この黄色い壁や床って「The Backrooms」の写真に近いものを感じます。壁材や建築材の時代性があるんですかね。

▲ 「The Backrooms」を再現した3Dモデルのスクリーンショット Model by Huuxloc / CC BY 4.0 / via Wikimedia Commons

S: 1974年の竣工だともう築50年近いので……。

ア:経年劣化の黄ばみ、ですか(笑)。

S:人が全くいなくなると、経年劣化がより人の不在を物語るのかもしれません。この黄ばみが良いですよね。

ア:いいですよね。今回の一つのキーワードかもしれないですね。

S:そうですね。地方都市の産業をベースとした企業や雑居ビルは消えていく運命なので、そういうものも共有してもらえたら嬉しいなって思っています。

ア:ありがとうございます。今回SAKAIさんのお写真を拝見して、リミナルスペースには「暗がり」の要素が強い気がしました。例えばグランパレビルの写真は、「下の階から何か出てくるんじゃないか……」みたいなことを想起させられます。元々建築用語としての「リミナルスペース」は通路等を指しますが、階段も上の階から下へ繋がる通路であり、なおかつちょっと暗いしちょっと怖い。
あと、空間の古さや先ほど「黄ばみ」と表現した若干の汚さも要素としてある気がしているんですよね。SAKAIさんが廃墟探訪されていらっしゃる時にこういった空間を見つけて、結果的にリミナルスペースに接続してきたというリンクがあるんだろうと思いましたね。

S:いろんなカルチャーの交差点になってるような感じがしますね。
ということで、「リミナルスペース」をこの図の中にどう落とし込むか。

微:なんかついにやってしまう感じがしてワクワクしています(笑)定義しましょう!

S:まず横軸は「憂鬱に浸る」、縦軸はやっぱり「不気味」っていうところなのかなというところで……。

S:……こんな感じになりました。

微:どうでしょうアシアタくん、反対意見などありますか?

ア:ないです(笑)
。おっしゃっていいた通り、横軸は「憂鬱に浸る」ぐらいな気はしていて、「廃品とみなす」まで行くと空間として終わりになってしまい、廃墟に近くなってしまうと思います。
辛うじて営業している空間というところで「憂鬱に浸る」が適切かと思います。縦軸の「不気味」はまさにリミナルスペースの代名詞ですし、マッチしていると思いますね。

微:僕もちょうどいいかなと思いますね。まずはここを基準とするって感じですね。

ア:ではここから本番ですね。

S:そうですね。
ここからは「ポスト・リミナルスペース」がどう「ポスト」なのかをさらに細かく考えていきましょう。続いて紹介するのは、「ノスタルジア・ユートピア」。

▲COR!S作『用意された街』に登場する架空のショッピングモール「プラザ・セルシア」

S:これは簡単に言いますと、今回展示されているCOR!Sさんの『用意された街』の「プラザ・セルシア」のことです。あんな素晴らしい場所は現実じゃなかなかないんですが、ああいった場所を現実社会で探すとどこなのかっていう写真を2つ用意しました。

S:まずこちらが新治ショッピングセンター「さん・あぴお」。茨城県土浦市にある、1993年4月にオープンしたショッピングセンターです。不本意ながらデッドモール(ガラガラのショッピングモール)としても知られています。実際、建物は老朽化が進み、多くのテナントが撤退してお客さんもまばらです。
しかし、人の不在と同時に、例えば青い鉄骨の階段や、ガラス張りのシースルー・エレベーターのポップさは地域の人々にとって「都会」の象徴であったのかなと推察されます。あるいは、特設ステージでキャラクターショーや地元団体の発表会が催され、単なる買い物の場所ではない、ワクワク感が詰まった場だったのかなと。想像力を研ぎ澄ませると、ここにノスタルジアとユートピアが見えるかなと思います。

ア:実は私もここに行ったことがあります。
人のいないショッピングモールで、なおかつファンシーな建築と聞いて、気になって行ってみたんですが、電車などの公共交通機関で行けるところではなくてタクシーで数千円かけて行きました(笑)。そのようなアクセスの悪さゆえに衰退してしまったのかなと思いますね。
写真に写っているところ以外も全体的にファンシーで、特にゲームコーナーは良い空間でした。ぜひ皆さん行ってみてください。

S:続きまして、こちらがイオンモール桑名。三重県桑名市ですね。三重県はイオングループの源流である岡田屋の創業の地ということもあって、非常に贅沢で賑やかな公共スペースとしてのフードコートが取り壊されずに残っています。パームツリーのある巨大な吹き抜けは、中心に室内噴水があり、噴水ショーの時はまっすぐ高く三階フロアまで飛沫が上がります。現役施設ではあるんですが、甘美なノスタルジーとユートピアが溶け合わさった空間という意味では、ここは本当に秀逸だと思っています。

微:大体こういう水のシステムって枯れてしまいますよね。だから今でも残っていて、しかも三階まで打ち上げているというのは良いですね。テナント自体がちゃんと機能しているんですね。

S:そうなんです。しっかりテナントが入っていて、ただフードコートはそこまで盛り上がっていないかな……という感じです。
そんな「ノスタルジア・ユートピア」は、リミナルスペースと同じで憂鬱・メランコリーが横軸かなと。

ア:やっぱりちょっと元気のない場所ですよね。

S:そして訪れた時に感じるものは孤独かな、ということでこのような位置になると思います。

ア:私としても異論なしでございます。

微:かつてあった夢を追い求める場所みたいな。ここで最高の生活をみんなでやっていくぞっていう夢が昔あったんだなっていう悲しさ、切なさ。そういうのがちょっと癖になりますよね。

S:続きまして、「アンビエント空間」。今日の会場は「アンビエント空間」に近いのかなと思います。

S:まず千里ライフサイエンスセンタービル。
ここは微風ゾーンさんに解説してほしいぐらい。

微:千里(大阪府)ということもあって、関西住みの私としては行きやすい場所にあるんですよね。この写真でわかるように植物的な要素と、この吹き抜け。
そしてエレベーターもガラス張りで丸くなっている、といろんなもう「これこれ!」っていう要素がギュッと詰まってて、そして光が燦々と取り入れられている。火星で植物を栽培しているような場所のようで、未来志向でとても素敵ですね。

S:そして、先ほどの千里ライフサイエンスセンタービルが西の代表だとしたら、僕は東の代表がこの港区芝浦にあるシーバンス ア・モールだと思います。

微:かっこいいですよね〜!

ア:私もここは何回も通っています。なぜかオフィス街の中にここだけ商業施設がニョキっと生えているんですよね。ここのすごいところが、見た目もさることながら、平成初期ぐらいまであった看板がカタカナで書いてあるマクドナルドがまだ残っています。この空間自体もすごくいいですし、そういう文化資料的な意味合いで訪れるのもアリな場所だと思います。

S:そんな「アンビエント空間」も、この図に落とし込もうかなと。
私はあまり詳しくはないんですけど、アンビエントミュージックは感情を抑制するイメージがあるので、横軸は静かでも動きがあるわけでもなく、中間かなと。一方縦軸はここの空間は癒しを感じさせてくれます。

S:不安や不気味さがないので、ちょっとリミナルスペースからは遠く離れているのかなって思っております。

ア:「ノスタルジア・ユートピア」とも対極的なイメージもありますよね。ところで横軸は「空虚」にされていますが、個人的には空調で植物がゆらゆら動いてる……みたいなちょっと動きのあるイメージもあったりします。

微:アンビエントという言葉自体が大きめの概念なので、なかなかこの横軸縦軸に当てはめるのは難しいと思います。一点に置くのは難しいタイプだと思いますけど、中心はここだと思いますね。
動きすぎても変だしね。

ア:範囲が広いというのは確かにあると思います。アンビエントの中でもブレがあって、活動的なアンビエントもあれば静かな方向のアンビエントでもあると思うので、平均値的なところを取るのにはここが良いのかなって思えてきました。

▲アンビエントには幅がある

S:続きまして、「エトランゼ」。例として、新宿アイランドの地下1階のパティオ広場、西新宿になります。1995年竣工。

S:1960年代から始まった行政主導の大規模再開発による超高層ビル街の一角にあります。東京有数の規模のオフィス街ゆえに、早朝や深夜・休日は人がまばらです。普段は賑わっている公共空間で贅沢さ・ゴージャス感と寂しさの両方を味わえる。
そんなスポットです。
「リミナルスペース」や「アンビエント空間」との差異は、半屋外になっている点が一つポイントかなと思っています。

S:これは旅先で入った喫茶店です。サンバードっていう静岡県熱海市の喫茶店なんですが、窓際の壁にテーブルを垂直に配置することで、お客さんは窓ガラスに並行して座ることになります。
それによって店にいながら、街の喧騒を感じ、自分自身が都市のにぎわいの一部と化した気持ちになります。なじみのない街の単調な行動を肯定することも否定することもせずに、控えめな態度で、ただ眺めながら無為な時を過ごす場所。
他人の日常に入り込みつつも、しかしそこは自分が全く知らない人たちの生活圏。そこで感じる寂しさや孤独、賑わいが「ポスト・リミナルスペース」になるのかなと思いました。

ア:「疎外感が心地よさに変わる」というのが面白い概念だと思いました。私も旅行が好きなんですが、地方に行った時って、同じ日本ではあるけれど何か言葉にできない違和感を感じます。例えば大阪って空間の使い方が東京と違う感じがしていて。今思うと確かに疎外感を感じているのかもしれないですね。
捉え方が間違っているかもしれませんが、出身の違いなど人によって何をもって「エトランゼ」とみなすかっていうのは変わる気がしていて、一方で日本全国の人の「見知らぬ土地」が平均化されると、SAKAIさんがおっしゃったような空間になってくるのかなと思いましたね。

S:本来の旅は、記名性のある建築や何か歴史的なものとか、そこにしかないものを求めるわけです。それがこのリミナルスペース界隈では、逆に自分の日常の延長にある没個性的・匿名性の高い場所を旅先でも、もしくはCGや液晶の中にも求めている。なぜ自分の日常の延長みたいな場所で癒されるんだろうと、すごく不思議です。僕は廃墟ではとにかくその土地にしかない地場産業と密接に結びついている土地を追いかけてたので。自分の取材経験の中では、ふと入った喫茶店などで同じようなものを感じたなと思い今回ピックアップしました。

微:この図の中に入れるとき迷いますね。

S:これは僕の中で「ポジティブな孤独」というイメージです。今までの概念は、自分の日常圏の中でふと凝視したら、あの不気味な空間が見えるイメージ。それに対して「エトランゼ」は、自分の部屋を出て積極的に感じる孤独です。

微:80年代に「大人の隠れ家」みたいなワードが流行ったじゃないですか。当時すごい嫌で。「お前は一体誰から隠れとんだ」みたいな(笑)。「大人って自意識過剰だな」と思っていたことがあるんで。でも自分が大人になってみたら、こういう積極的な孤独っていうのを楽しませてくれる場所が魅力的なのもわかるし、流行りが落ち着いた上で「孤独」が自分にとって本物になっている。それが二重に寂しくていいですね。

S:もしかすると我々が年を取ったっていうことかもしれないです(笑)。

S:続きまして、「ポストヒューマン」。まずこちらは東京国際フォーラムです。

S:無人のビルだったんですけど、閉館間際に写真を撮っていたらロボットが僕の存在を感知して、何か警告みたいなことを言いながらこっちに向かってきたんです。今では笑い話ですけど、本当に怖くて。連れていかれるのかな……と思ったら、「お忘れ物ないようにお帰りください」とだけ告げて折り返して行って。だけど、その時にもし誤動作で敵と認識されたら…….。

微:ビームで焼かれてた(笑)。

S:
そうそうそう!本当にそうなんです。「立入禁止の場所に来ちゃったのかな」とか「撮影禁止って書いてあったっけ」とか考えて、とても不安になりましたね。

微:ワードのチョイスも絶妙ですよね。「帰れ」とは言えないじゃないですか。直接的に言わずに、警告として「お忘れ物なきよう」と言う都会的な距離を取ってくる怖さがありますね。柔らかい排除をロボットにされたという。これからの社会を象徴するようなものですね。

ア:「見てるからな」というのが暗に含まれてますよね。AIによる監視の世界ですね。

S:2回目、3回目も同じことやったら文言変わるかもしれないですよね。

微:「前にも見たぞ」とか(笑)。

S:こちらが県営幕張地下第一駐車場。自動精算機に代替されて駐車料金を精算するためのブースが不要となり、本来人が労働してきた場所に人がいなくなり、その不在が浮かび上がっているという意味で「仕事が奪われていくんだな」と無人のブースを見るたびに思います。こうやって抜け殻になった状態のものを見ていると、機械化とかAI化ってどんどん進んでいくんだ……と素朴に思いました。

微:かつてこの小さいところに人間が押し込められてたというのが、さらに切ないですよね。

ア:「ポストヒューマン」って「人類絶滅後の世界」みたいなSFチックなところがあると思います。「世界には自分以外誰もいなくて機械だけが自動で動いている」みたいな感じで、リミナルスペースよりも強い孤独感を感じるんですよ。私はこういう空間に行った場合、より強いネガティブを感じますね。

S:図の中の「廃品とみなす」という強い言葉はこの概念のために用意したようなものです。リミナルスペースと同じような空間であっても、こっちの方が人間に与える疎外感が強いので、廃品とみなして、それゆえに「不安」という一番ネガティブなものに行くのかなと。

S:このまま社会が加速していけば、ポストヒューマン的なものがまさに「ポスト・リミナルスペース」になっていくのかなと思いますね。

S:続いて「エキゾチカ」。こちらが羽田空港第3ターミナル直結の大型空港施設・羽田エアポートガーデンになります。

S:これは歴史・文化・伝統といった土着性が一切ない能舞台になってます。このキッチュなエセ感が非常に心地よいというか、外国人が求める解像度が低めの「日本っぽさ」。ということは、ここは「日本であって日本でない空間」なのかなと。
その宙ぶらりんな感じがリミナルスペースと親和性が高いのかなと思い用意しました。

ア:空港側も偉いですよね。正しい日本文化を伝えたいプライドもあると思うんですよ。「雑に捉えられても嫌だ」みたいな。でもあえて外国人観光客に楽しんでもらえるように、唐突に能舞台を置くチョイスがいいですよね。

S:でもここも結構テナントが撤退してガラガラになっている。

微:外国人も求めてない(笑)。そういう空間になってるっていう寂しさがありますよね。

S:続きまして、これが福島県郡山市にある古いラブホテルの一室です。窓がなく、外部から遮断された空間に南洋テイストで飾りたてた人工エセリゾートになっています。僕の町歩きの知り合いの中にも、ラブホテルを専門にまわっている女性が数多くいまして。何が楽しいのかなと考えたんですけど、ラブホテルって業界にグローバル企業が一切ないんですね。チェーン展開して天下を取ったようなホテルが一切ないので、均質化・標準化されてない。それゆえにいい意味でも悪い意味でも予測不可能。そして、たまにこういう当たりがあります。
これはハワイか何かをイメージしたのかもしれませんけど、当然ここはハワイではないし、かといって郡山市からも離れた、どこにも属さない不思議な感覚がリミナルスペースとも似てるのかなと思います。

微:『マルサの女』という映画で、金儲けのことしか頭にないラブホテルの社長が主人公に取り入ろうとする一幕があるんです。その中で主人公に「あなたは夢を売る人だなって」と言われることで、社長が自分のロマンチックな一面に気づくシーンがあって、そこがすごく好きなんです。まさにそういうふうに、バブルの“夢”に社長自身も乗っかっていて、その人が求めているユートピア観が、自然と空間に反映されてしまうような勢いを感じますよね。

S:そうですよね。だからラブホテルに本来の目的じゃなく単身で行って、ここで音楽かけてるとトリップしてきますね。

ア:ラブホテルって現代ではSNSでの共有がありますけど、やはり大っぴらに外に出せるものでもないので、入ってみないと分からないお宝探し感もあるのかなと思いました。
それと、これは想像ですが、当時と今とで建築基準法や風営法が多分違っているので、こんな部屋も今作るのは難しいんだろうなと思います。今後散りゆくような空間なのかもしれないという物悲しさを感じますね。

S:やっぱり扉を開けた時にワクワクするんですね。ただ、長くいるとちょっと頭がやられてくるというか、不気味というか。図に落とすとすると……。

ア:図の左下か右上にあるのが自然な空間の感じ方だと思うんですけど、そうではない方向はギャップがあるというか、それ故の面白さがある気がします。

微:窓がないのに空を描いているっていう違和感が長時間滞在していると大きくなってきて、どんどん気持ち悪くなるというのもわかりますね。

S:五感の中で視覚だけ南国なのは無理があるというか、気持ちが最終的には悪くなってしまうというか。

ア:行きやすい場所だと、キッザニアとか、もう閉まってしまいましたけどイマーシブ・フォートとかが「エキゾチカ」に近いですかね。

S:続いて「ガジェット」。これは空間というより、現象に近いかもしれないです。まずはこちらです。

S:エステック情報ビル。これも西新宿で見つけました。使われなくなった自動ドアですね。
そこにバリケードの役割を観葉植物に持たせて、結果的にこの自動ドアがショーウィンドウのようになっていく。ビル内で物と物がジョブチェンジしている。こういう本来の建物の意図が少しずつ損なわれたり機能が壊れたりしていくと、最終的にリミナルスペースになっていくのかなと思います。だから、もしかするとポストというよりは「プレ・リミナルスペース」かもしれないです。

微:もがきですもんね。回転ドアが撤去できないから、じゃあここに観葉植物を置いてみようかっていう。こうはならないだろと思いますけどね、普通(笑)。でも不思議とかっこいいですね。なんかすごく気持ちがいい。

微:実は僕とアシアタ君で、こういう街中に置いてある観葉植物のことを「パセリ」と呼んで愛でているんですけどね。ハンバーグの隣に賑やかしのためだけに置かれているパセリと役割が似ていると言う意味で言ってるんですけど。

S:これはメインディッシュになっちゃってる。

微:確かにそうですね。だからすごくかっこいいです。「パセリお前すげえじゃん」みたいな(笑)。

S:余談なんですけど、昨日家で高校生の娘の前で今日の練習をしていて。この写真に写っているものが分らなかった。

ア:確かに!世代が離れていますものね。

S:これは公衆電話機の台座です。これは晴海アイランドトリトンスクエアというすごく大きなオフィスビルの1階にあったんですけど、電話機とそれを使用する人の不在。
電話機という主がいなくなり、台座だけが残っている。
元々街歩きの方の間で「#公衆虚無」っていう、公衆電話とかけたハッシュタグが流行ってた時期がありまして、不在を可視化させたこの現象もどこかリミナルスペースに近いものを感じます。

ア:人の不在ならぬ、物の不在みたいな感じがありますね。

S:でももっとショックなのは、これをそもそも知らない若い世代がいるっていうこと(笑)。

ア:元からこういうオブジェだと受け取られているかもしれないですね。この概念を見ていて思ったのが、我々が愛でている「ポピー」は「ガジェット」の観点から説明ができそうです。「ポピー」というのは、駅のコンコースなどにある広告欄が埋まらずに、埋め合わせで風景写真が挿入される様子を指す概念なんですけど。

▲「ポピー」の例

S:「ガジェット」はこれを見たからといって、ワクワクすることもなければ憂鬱になることもなく、ちょっと嫌な感じ。
でも「ポピー」は逆に楽しいですよね?

ア:確かにそうですね。癒しとか。

微:結構嬉しいかも(笑)。

ア:まあそれは我々が特殊なだけなので(笑)。元々はちょっとした違和感、例えば「変化に戸惑う」とかそんなような気がしますね。

S:続きまして「アーバン」。これはいわゆるシティポップのようなものです。
それゆえこちらは「ポスト・リミナルスペース」の一種というより、対称的な位置に置くものなのかなって思っています。

S:まずこちらが阪急17番街です。阪急梅田駅の駅ビルである阪急ターミナルビルの中にあります。煌びやかなシャンデリアと螺旋階段は、格調高く優雅な1970年代の雰囲気を残しています。商業スペースがホテルライクなゴージャスさを演出する空間というのも今となっては貴重で、場所性・記名性が非常に高くリミナルスペースからは非常に遠い。ですが、こういうところがまた寂しいと感じる人が結構いたので、そうすると親和性の高さもあるのかなと思います。

ア:これはホテルではないんですよね。

S:大阪のすごいところです。東京だと駅ビルの中に突然これがあるなんてちょっと考えられない。

微:確かに関西にはこういう空間が突然出てきたりはしますね。

S:これには本当に感動しました。そして最後にこれがホテルスプリングス幕張。1990年に開業したホテルです。

バブル期のホテルエントランスにあるレストランです。吹き抜け空間に水が流れるというリゾート感覚のあるおしゃれ具合が最高だなと思います。今のラグジュアリーホテルなんかは静寂・匿名性を追求しているので、ここまで開かれた半公共の場があるのは、すごく明るくて都会的だと思います。
この点ではリミナルスペースとは真逆なんですが、でもこういう場所に行くと人がまばらなんですよね。30年ぐらい経過してしまっているあの頃の空間で、かつ人がまばらなので、リミナルスペースと近いものを感じてしまう。だけど本来の場所としては、真逆に位置するものなのかなと思っています。

ア:この写真は私の好きな要素ばかり含まれています。例えばヤシの木の形をしたライトは時代性があって、今日見かけないです。幕張にも同じようなものがありますよね。

S:ありますね。

ア:リゾート感の演出のために本物のヤシを植えると管理が大変なので、結果的にこうなっていったと思うんです。あと屋内に小屋や水が流れているところは嘘のリゾート地・嘘の自然をイメージしてるところがあるのかなと。感動してしまいました。

S:こういう場所が今少なくなっているというのも、寂しいなという気がしますね。そしてここまでの8個が街を歩きながら感じた概念になります。

ア:ありがとうございます。

EchoSpaceと微風ゾーン

ア:実は私アシアタと微風ゾーンさんはそれぞれ「EchoSpace」と「微風ゾーン」という独自の概念を作ってネット上で活動をしています。ただ、今まであえて「EchoSpace・微風ゾーンとはこういうものです」というものを示してこなかったんですよ。一方で、皆さんの中では「EchoSpaceと微風ゾーンって似てるけど、何が違うの?」という素朴な疑問があると思います。先日、YouTubeチャンネルの「Tsudio Studioの微風ゾーン」に「微風ゾーン vs. Echo Space」という動画が上がりましたが、今回はその決着をつける形になります。
まず、私の「EchoSpace」の方から説明させていただきます。

Echo Space

ア:この概念を作ったのは2024年の3月です。私を含めて 3人で共同提唱をした空間です。というのも、 3人の中で「なんかいいよね」という空間が共通していたのですが、それが言語化されていなくて。でもこういうのが好きな人は他にもいるだろうから、第三者に向けて説明ができればその空間の良さを広めていけるんじゃないか……と考えて作ったのが「EchoSpace」です。提唱者の中で「こういうのが好き」というのを挙げていった結果、共通項として残ったのがこれらの構成要素です。

まず「人の不在」。これはリミナルスペースと同じですね。
そして”Echo”の名の通り、高い天井や広い空間、またそのように感じさせる構造が特徴です。例えば鏡で空間拡張されたように感じる場所も「EchoSpace」らしさがあると思います。
また、大事な要素として、「外部からの光源」があります。
これによりリミナルスペースよりアッパーな要素があるんじゃないかと思っています。
そして観葉植物やオブジェなど「人に見られたり利用されたりする要素があるのに誰も使ってない」というものも愛しさを感じます。
あとは、自分が小さい頃どこかで見かけたかもしれない空間(デジャブ)、そんなイメージもあります。
先ほどの説明の通り3人で提唱した概念で、元は3人それぞれの「EchoSpace」の解釈があったんですが、今も続けているのは僕しかいないんですよ(笑)。
僕の解釈で言うと観葉植物の存在が要素として強いです。このため植物園の温室がイメージとして近いです。
実例として、こちらは幕張にあるビルの写真です。

ガラス張りによる外部からの光源や清潔感、テカテカしたタイルに観葉植物が置かれている様子。それにビルのミニチュアですね。
本来は人に見てもらうところなんですけど、ここもあんまり人はいなくて。

もう1個がこちらです。本当は公共空間を実例に「EchoSpace」を紹介した方が良いと思うんですが、自分の好きな空間と紐付くのは植物園の温室ですね。温室はガラス張りで外部からの光源が入ってくるし、観葉植物が肥大化して大きな植物になるイメージ、そしてベンチという公共性ですね。

ア:これを実際に図に落とすとなると、自分としてはSAKAIさんが紹介してくださった「アーバン」や「アンビエント」の特徴とも似ているところがあって、この中間位置に「EchoSpace」がいるんじゃないかなと思います。縦軸は「癒し」、横軸は「何かまなざす」「ワクワクする」あたりなのかなという印象がありますが、いかがでしょう。

S:植物園は生きてる植物じゃないですか。だけど、「微風ゾーン」もしくは僕が回ってるような商業施設にあるのはほぼフェイクグリーンなんですよね。
人間ってなんでフェイクグリーンで癒されるんだろうっていう不思議がある。フェイクグリーンって365日変わることもなければ枯れる美学もない。それなのになぜ我々は心を奪われているんだろうという。だから植物園はずるいです(笑)。植物が活性化してて活き活きしてるので、そこで癒されたり、匂いとか視覚情報以外も感じ取れたりするので、ここが癒されるのは当たり前で。すみませんね(笑)。

ア:でもなんか不思議ですよね。緑だったら偽物でも癒されるっていう。

S:そういうことなんですかね。そういう意味で、植物園の空間はこの図の圏外です(笑)。やっぱり僕はなんかフェイク、人工的であってほしいなっていう願望があります。例えばこれがフェイクだったらみたいな。

ア:なるほど(笑)。植物園を除いたうえで考えると、僕としては公共的な空間と観葉植物を「EchoSpace」として認識しているので、横軸で見れば「空虚」「何かを失う」のあたりですかね。縦軸としては「癒し」だと思います。

S:メランコリックなところが、リミナルスペースと「EchoSpace」をつなぐものなのかなと思います。

ア:僕らの概念って、リミナルスペースから影響を受けたり元になっていたりというのがあるので、SNS上では「良いリミナルスペースだね」という反応もあります。その点で言うと、僕がもともと指していたゾーンはリミナルスペースと被る要素が何もないので、修正後の位置の方がしっくりきました。

S:はい、そうですね。

ア:とすると、「微風ゾーン」も右上以外の場所にある気がしてきますね。

微風ゾーン

微:「EchoSpace」の説明を聞いて改めて思ったんですけど、「微風ゾーン」と「Echo Space」に明確な違いは正直ないかな、と僕は思いますね。「EchoSpace」の提唱している条件は僕が「微風ゾーン」と呼んでいる場所とほぼ一致すると思っていて。そういう風に定義したこと自体が「EchoSpace」の特徴であるのかなと思います。

ア:おっしゃる通りで、「EchoSpace」を立ち上げた時、既に「微風ゾーン」が存在していたので、パクリにならないように、差別化を図っています。

微:「微風ゾーン」は2021年ぐらいからハッシュタグと写真だけで始めてあんまり説明をしてきませんでした。「微風ゾーン」という言葉自体、自分のSNSの言葉遊びで生まれたんですけど、その言葉が持つインスピレーションが自分にとってとても大きくて。「この言葉を使ってリミナルスペースに近いけどもっと明るい表現ができるぞ」という言葉ありきの活動をしてきました。言葉に導かれた感じなので、定義してしまうとこぼれ落ちてしまうものもある気がしています。

ア:「#微風ゾーン」で皆さんがあの雰囲気を同時多発的に共有されていて、あえて言語化しないことの良さを感じました。世の中って何かと言語化したがるじゃないですか。逆に「微風ゾーン」は「それが何か」と特定しないことによって広がりがあると思います。

微:「微風ゾーン」らしい写真とはなんだろうと考えた時に「光の入ってくる空間」は撮っていく中で特徴だなと自分の中で気づきました。

微:これもそうですね。リミナルスペース的な暗い場所に、ある時間帯では光が差し込んで、癒しとか祈りとかを感じさせるような、そういう瞬間もあるんだ。というところに自分自身が癒されています。

微:今回のアルバムのジャケットにも使ったこの場所も、ある特定の時間になると日差しが差し込んできて、美しい砂時計のような形になる。微風ゾーンは「瞬間を切り取っている」というのはあるかもしれない。
リミナルスペースとかは時間経過はあまり意識されてない空間概念じゃないのかなっていう気はしますね。

ア:今回微風ゾーンさんが展示している作品の解説でも書いていらっしゃったんですけど、キーワードに「風化」があると思います。「微風ゾーン」の空間の捉え方は「EchoSpace」と視点が全く違っていて。今回の縦軸・横軸に当てはめてしまうと結果的に近しい空間になってしまうんですが、そもそもの鑑賞の仕方が違うところがあると思うんです。

微:そうですね。必ずしもバブル時代の建築、空間とは限りませんが、現役バリバリの場所ではない。

ア:それと、「微風」の名の通り風の通り抜けが良さそうな場所が「微風ゾーン」なのかなと最初は思っていました。でも紹介いただいた写真は室内の空間なので、別にそこまで必須のものでもない気がしますね。

微:昔の扇風機に「1/fゆらぎを持った風を出して本物の風を擬似的に感じよう」みたいな機能がついていたんですけど、そんな「嘘の風」みたいなイメージも自分では感じています。なので別に本当の風が吹いている必要もないです。空調でも面白いと思います。

ア:じゃあ実際に配置してみますか。

微:難しいなあ。ただ縦軸が上側なのは確定ですかね。あんまりアッパーではないとは思いつつ、「小さな喜び」っていうのはしっくりくる。リミナルスペース的な場所にも光の差す瞬間がある。そして実際に現実の世界の中でそれがあったという事実に写真を撮る中で何度も遭遇した事。そういう現実の場所であり、瞬間が「微風ゾーン」なのかも。時間経過の中で、空虚な世界にも小さな喜びがあるというところに希望を感じたい心を投影する、ということなのかもしれない。

ア:多分「微風ゾーン」の魅力を一番よく出せるのって動画なんじゃないかなって気がします。今回の微風ゾーンさんの展示でも動画を出されていますが、それがすごく微風ゾーンらしさ・良さが出ているように思っていて、今のお話を聞いて自分の中で納得できました。

S:リミナルスペースがAとBをつなぐ通路的な場所と考えると、僕の中で「微風ゾーン」は外部と内部をつなぐ場所なのかなと思います。要はガラス窓が外部と繋がりながら空間を遮断している場所。光を取り込むのだけど、決してそこは自然の場所ではない。そういう意味で行くと、「微風ゾーン」は自然と人工空間もしくは外部と内部の中間領域なのかなと思います。
そして内部にいる時に、本来外でしか吹いていない風が感じられるような優しい眼差しがありますよね。その意味で行くと、場所と場所を結ぶというより、内と外を繋ぐマージナルな場所というか。そして何よりも「微風ゾーン」という名前がキャッチコピーとして優れている。この名前は本当にシーンを射抜いていたので、SNSであれほど盛り上がったことは素晴らしいなと思ってます。

▲8つの「ポスト・リミナルスペース」概念とEchoSpace・微風ゾーンの配置結果

ア:ということで、今回はSAKAIさんに「ポスト・リミナルスペース」概念についてご紹介いただき、我々の概念についても同じ視点から図に落とし込んできました。完成した図を見てみると、空間を考える補助線としてわかりやすいものになったと思います。やはり、概念として名前を付けることで、その空間に対する意識が向くようになると思うんですよ。我々のような空間を訪れて写真を撮る人間にとって大変価値のある資料になったと思います。本日は本当にありがとうございました。

微・S:ありがとうございました。

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微風ゾーン / Bifuu_ZONE

音楽レーベルLocal Visionsを共同主催している神戸在住の音楽家Tsudio Studioのアンビエントプロジェクトである。
音楽、写真、映像を駆使し“風の始まりの穏やかな空白座標“を表現。自身の写真を狭義のリミナルスペースと区別するため2021年から #微風ゾーン というハッシュタグを独自に作り出しSNS上で作品を発表し続けている。
今回の展示では多数のデジタルフォトフレームを使用し、それぞれ独立した時間軸で音と映像が繰り返されるサウンドとビジュアルによるインスタレーション作品を発表。
2026年の2月には微風ゾーン名義では初となるフルアルバム「The West」をConstellation Tatsuからリリースする。

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アシアタ / A_CID_A_TAC

音楽ジャンルであるヴェイパーウェイブのビジュアルイメージに影響を受け写真活動を始める。普段撮影する無人空間が全て「リミナルスペース」と呼ばれることに疑問を抱き、YureiLandscape、Tellurらと共に「EchoSpace」という概念を提唱。
一方でゲーム機のカメラ機能を活用したリミナルスペースらしさの追求も行なっている。

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SAKAI(iMood)

2026年から活動名をiMood(iムード)に改名。
単行本『ニッポンの廃墟』(2007)刊行。オルタナティブな観光を発信する不定期マガジン『八画文化会館』(2010-2022) 発行。

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