(REPORT)
【REPORT】TALK EVENT「アートスペースが街とつながるとき ―企業とアートの関係―」

2025年7月11日19:00〜21:00、SHUTLにてトークイベント「アートスペースが街とつながるとき ―企業とアートの関係―」が開催された。このイベントでは、アートスペース運営やアートプロジェクトを手掛ける3社から担当者が集まり、取り組みの背景やアートと都市、企業と文化の関係性について語り合った。
登壇者:
YAU
野村奈緒 (三菱地所株式会社まちづくり推進部ユニットリーダー)
中森葉月 (三菱地所株式会社まちづくり推進部マネージャー)
MEET YOUR ART
加藤信介 (エイベックス・クリエイター・エージェンシー株式会社 代表取締役社⻑/MEET YOUR ART 代表)
SHUTL
鈴木太一郎 (松竹株式会社不動産本部上席執行役員)
黒田 純平 (株式会社マガザン アートプランナー / キュレーター・ギャラリスト)
モデレーター:名古摩耶 (ARTnews JAPAN 編集長)
ライティング:近江ひかり
登壇したのは三菱地所が運営するプログラム「YAU」より野村奈緒 (三菱地所株式会社まちづくり推進部ユニットリーダー)と中森葉月 (三菱地所株式会社まちづくり推進部マネージャー)、エイベックスにて「MEET YOUR ART」を運営する加藤信介 (エイベックス・クリエイター・エージェンシー株式会社 代表取締役社⻑/MEET YOUR ART 代表)、SHUTLからは鈴木太一郎 (松竹株式会社不動産本部上席執行役員)と黒田純平 (株式会社マガザン アートプランナー / キュレーター・ギャラリスト)。司会は「ARTnews JAPAN」編集長の名古摩耶が務めた。

モデレーター:名古摩耶 (ARTnews JAPAN 編集長)
まずは各プロジェクトの実践について各担当者が紹介。初めに、SHUTLの成り立ちや理念について鈴木が述べた。運営母体である松竹は映画や歌舞伎を中心に事業展開し、東銀座地域に拠点を持つ。この地域の再開発にあたり、総合的な文化の発信地としての役割を充実させ、より幅広い領域と接続していきたいというねらいがあった。鈴木は「文化という枠組みの中核にアートがあり、その周囲に映画、演劇、音楽、食、建築等多くの領域が重なり合っていると考えている。アートは松竹がいままで扱ってこなかった分野でもあり、文化を担う企業として挑戦したいと思った」と語る。伝統文化に携わるイメージが強い松竹だが、あえて既成概念にとらわれないものを目指し「伝統と現代の新たな接続方法を生み出す実験場」というコンセプトを立て、2023年よりスペースの運営を開始。SHUTLが位置するのはアクセスが良いとはいえない開発用地だったが、立地を生かせる方法についても議論を重ね、実験的な試みを行う場と位置付けた。鈴木は「一見松竹が運営するスペースには見えないと思うが、それがねらい。新たな松竹による文化の発信地を目指している」と述べた。名古から東銀座エリアの印象を問われると、鈴木は「実は住所にはない地名で、あまり色がついていない分、ポテンシャルがある地域」と期待を寄せた。

SHUTL:鈴木太一郎 (松竹株式会社不動産本部上席執行役員)
次に、これまで手掛けたプロジェクトをキュレーターの黒田が説明。SHUTLはいわゆるホワイトキューブではない展示空間をもつことが特徴。オープン時には、かつて同地域にあった名建築「中銀カプセルタワー」のカプセル部分を活用・展示したことも注目された。こけらおとし企画では、同タワーを設計した黒川紀章らが提唱していた建築運動の概念で「新陳代謝」を意味する「メタボリズム」から発想し、「伝統自体が新陳代謝を行っている」という仮説のもと「伝統のメタボリズム」というコンセプトを打ち出した。現在では「カプセルに依存しないような実験的な取り組み」を目指して新たなスタートを切っており、今年6~7月の人工子宮をテーマとした長谷川愛の没入型インスタレーション「PARALLEL TUMMY CLINIC 」もチケットが完売するなど、挑戦的な企画が話題になっている。

SHUTL:黒田 純平 (株式会社マガザン アートプランナー/キュレーター・ギャラリスト)
次に、野村がYAUの概要について語った。YAUは「有楽町アートアーバニズム」の意で、長年ビジネス街である大丸有(大手町・丸の内・有楽町)エリアのまちづくりに関わってきた三菱地所が、ビジネスパーソンが多い街にクリエイティブワーカーが入るとどう変化するのかを実証するプロジェクトとして、実行委員会形式で運営する。この有楽町地域は再開発があまり進んでおらず、居住する人が少ない珍しいエリアでもある。ビル単体ではなく街を一体的に活用し、東京全体の国際競争力を上げていけるかを有識者らと議論した結果、アートがその要素として注目されたことが立ち上げのきっかけとなった。

YAU:野村奈緒 (三菱地所株式会社まちづくり推進部ユニットリーダー)
中森からは具体的な取り組みを紹介。現在はオフィスビル内にスタジオを運営しながら、幅広いジャンルのプレイヤーとプロジェクト等を行う。「もともとアーティストの存在がなかった場所に、どうやって多様な人々を呼び込み、コミュニティをつくっていくのか。それ自体を考える実験でもある」と話し、有識者やアートワーカーとともにコワーキングの場の創出を試みてきた。そのなかで意識しているのは、様々なジャンルのアーティストに対するニーズを探ること。アーティストが街を訪れ、企業とつながることで、オフィス街にどういった変化が起こるのか、仮説を立てながら進めている。2022年にはダンサーの倉田翠がこの地域で働く人を対象としたワークショップを実施。公共空間の広告スペースにアーティストによるイメージを掲示するプロジェクトや、パフォーマンス集団・悪魔のしるしによる、ビルに入るぎりぎりの大きさの造形物を運び込む「搬入プロジェクト 丸の内15丁目計画」(2023)、テニスのラリーをすることで即興的に音楽が奏でられる林翔太郎のプロジェクト「Wild Conversation~Music Tennis~ / YAU OPEN」(2024)など、クリエイティブワーカーらを街に巻き込む試みを行ってきた。他に東京藝術大学の授業を社会人向けにひらく「有楽町藝大キャンパス」や、企業を対象とした人材開発プログラム等も行っている。

YAU:中森葉月 (三菱地所株式会社まちづくり推進部マネージャー)
最後に加藤がMEET YOUR ARTの立ち上げ背景について話した。MEET YOUR ARTは、エイベックス・エンタテインメントの子会社であるエイベックス・クリエイター・エージェンシーが運営する複合的なアート事業。エリアに紐づかないコンテンツ制作を行いながら、西麻布にスペース「WALL_alternative」も構える。加藤自身はもともと音楽事業に携わっていたが、ミュージシャンのプロデュース等を通じて他分野のクリエイターに出会う中で、アート領域はマネタイズポイントやつながりをつくる場が限定的であると感じるようになり、新たな価値創出を目指して事業を開始。「利益を出しているプレーヤーがいなければ、新しい取り組みや次の世代につながらない。きちんと事業として儲かる構造をしっかりつくっていきたい」と明言する。
現在はメディアやアライアンス、スペース運営などのほか、アートフェスティバル「MEET YOUR ART FESTIVAL」 を開催している。名古は「『MEET YOUR ART FESTIVAL』は積極的に敷居を下げる活動をしていてリラックスして楽しめ、来場者層も他のアートフェアとは異なる」と指摘。加藤は「領域外からの目線だからこそ、既存のコンテンツはよいものであるという前提を大事に、リスペクトをもって伝え方や広げ方を考えたい」と、新たなムーブメントをつくる意欲を語った。
後半は市民のひとりとしてのアーティストの存在と、街とのつながりについてを中心に、セッション形式で議論が行われた。MEET YOUR ARTにおける社会へのメッセージ性について問われると、加藤は「いわゆる企業体が事業開発の延長線上でアートを立ち上げるうえでは専門家やアドバイザーに任せることも多いが、MEET YOUR ARTで大事にしているのは自分たちで意思決定し知見を蓄積していくこと」と述べ、「その上で、僕たちが可能性を感じる、未来を担うアーティストにスポットライトを当てていきたい」と語った。

MEET YOUR ART:加藤信介 (エイベックス・クリエイター・エージェンシー株式会社 代表取締役社⻑/MEET YOUR ART 代表)
また名古からは、アートを用いた再開発で大きく変わったニューヨークのミートパッキングエリア、観光地として人気だが人口は減少している直島、地価が上昇した天王洲といった事例を提示。「アートを活用することで街の価値を上げる手法はある程度立証されている一方、人口減少が鈍化しても土地に根を張る人は必ずしも増加しない」と指摘した。様々な街があるなかで、どのようなビジョンを抱いているか質問が投げかけられると、デベロッパーである三菱地所で大丸有エリアの価値向上に取り組む野村は「YAUは時間をかけて探る取り組み」と強調。「アート作品を見て得られた気づきがどう消化されるかは人によって違う。空きテナントにギャラリーが入ったから解決とするのではなく、関係人口を増やしていきたい」と話した。鈴木は「SHUTLの設立によって東銀座エリアに新たな層が訪れており、アートの力を感じている。それにより街に多様性が生まれ、新たな試みの相談が寄せられるなど、予想外の化学反応も起こっている」と述べ、アートによって街が新しい方向に展開していく可能性を実感していると語った。「都市機能を更新しながら豊かさを享受できる空間にしていくのが不動産の目的だと思う。その豊かさの一つが文化でありアート」と述べ、新たな文化発信拠点をつくっていく意欲を見せた。

次に名古は「アートやデザインをブランディングに活用した都市開発には、先行例でも示されたように、文化の商業化や家賃高騰による住民排除など、負の側面があることも否めない。バランスの取り方をどう考えるか」と切り込んだ。鈴木は「住む人、働く人、訪れる人との対話を通して、形を変えても残していきたいものを探ることが重要」と指摘。野村は「これからの都市開発では容積率をいかに積むかだけではなく、余白を計画的につくることが重要で、YAUは色々な存在が混ざり合うことの価値を考える新たな挑戦である」と述べ、「アーティストとの連携により、ディベロッパーだけでは認識しなかった違和感を共有したり、様々な角度でまちづくりを検討することができるようになった」とコラボレーションのメリットを提示した。
最後に、事業としてアートプロジェクトを展開するうえで避けられない、数値としての効果や利益の問題についても議論。鈴木は「やはりマネタイズは重要。ただ、世界のアート業界における日本のシェアはたった1%しかないという現状で、時間がかかる。現在SHUTLをやっている意義としては、人材育成と組織の成長を重要視している。アート事業に触れた社員によって組織に多様性が生まれ、5年後、10年後には、事業領域の拡大などの組織の成長が目に見える形になってくるはず」と期待した。野村は「YAUでは街づくりとアートの親和性の高さを社員や役員に体感してもらいながら、評価できるかたちを探っている」と現状を共有した。最後に加藤は「事業を開発する立場として、アートは儲からないという前提ではいけない」と話し、「特定エリアに紐づかない強みを生かし、空間のプロデュースや地域とのコラボなど、どう染み出していけるかを探りたい」と展望を語った。

それぞれ個性ある試みを展開する3社。手法や特色は異なるものの、アートによって新たな価値をつくり出し、街やそこに生きる人々に変化を起こしていく多様な可能性が共有されたトークイベントとなった。

(PROFILE)
野村奈緒
YAU:三菱地所株式会社まちづくり推進部ユニットリーダー
■登壇者:
2006年入社。以降、丸の内エリアのオフィスビルのプロパティマネジメント、都内オフィスビルの開発プロジェクト、丸の内エリアのブランディングに携わる。その後育休中に配偶者の転勤に伴い、渡英し一度退職。2020年に復職し、現在は、都市政策・産学連携推進2ユニットとして、東京大学や東京藝術大学との産学協創や、有楽町アートアーバニズムを担当。
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(PROFILE)
中森葉月
YAU:三菱地所株式会社まちづくり推進部マネージャー
■登壇者:
2016 年、新卒で出版社に入社。カルチャー雑誌の編集などに携わる。2021 年、三菱地所
に入社。コミュニティスペース「SAAI Wonder Working Community」好奇心が交差する
市場「有楽町 micro FOOD&IDEA MARKET」、アーティストの制作現場そのものを開放
する「ソノ アイダ#新有楽町」ほか、有楽町エリアにおける既存ビルでの企画業務を担当
し、「有楽町アートアーバニズム YAU」といった大丸有におけるアーティストとの取り組みを推進している。
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(PROFILE)
加藤信介
エイベックス・クリエイター・エージェンシー株式会社 代表取締役社⻑/MEET YOUR ART 代表
■登壇者:
2004年エイベックス株式会社⼊社。以降音楽事業に⻑く携わり、2016 年に社⻑室へ異動。社⻑室部⻑として、構造改⾰や新規プロジェクトに参画。2017年以降は執⾏役員としてコーポレート領域を担当した後、新事業開発・戦略投資領域を管掌し、MEET YOUR ARTなど複数の事業を立ち上げ・推進。MEET YOUR ART代表、総合プロデューサー。
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(PROFILE)

鈴木太一郎
SHUTL:松竹株式会社不動産本部上席執行役員
■登壇者:
不動産デベロッパーでの勤務を経て2014年に松竹入社。不動産部にて開発企画、施設管理などを担当し、18年に不動産部長、19年に執行役員に。翌年には松竹サービスネットワーク代表取締役社長に就任し、兼務。
(PROFILE)

黒田純平
SHUTL:株式会社マガザン アートプランナー /キュレーター・ギャラリスト
■登壇者:
1994年生まれ、大阪府出身。京都精華大学芸術学部洋画コース卒業。大学では絵画制作を主に専攻し卒業後は、「場所をもたないギャラリー」keshik.jpを立ち上げ、各地で展覧会、POPUPを開催する。2021年、共同運営「TENSHADAI」を立ち上げる。
現在は東京を拠点に「SHUTL」のディレクターとして、展覧会企画を担当する。
(PROFILE)

名古摩耶
ARTnews JAPAN 編集長
■モデレーター:
1978年生まれ。『Esquire』日本版、『WIRED』日本版などを経て、『VOGUE JAPAN』Features & Culture Lead就任。在任中の2020年、様々な社会課題について発信する「VOGUE CHANGE」プロジェクトを立ち上げる。2022年10月、1902年創刊の米アートメディアの日本版『ARTnews JAPAN』編集長に就任。
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