(INTERVIEW)
中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクト代表 前田達之さんに聞く、プロジェクトへの取り組みと想い
カプセルの魅力と、プロジェクト発足のきっかけ
2022年に解体された中銀カプセルタワービルのカプセルを受け継ぎながら、今の時代に応答する文化を発信していく新たなアート&カルチャースペース「SHUTL(シャトル)」。
2基のカプセルとそれらを収納する空間を舞台に、日本文化そのものの新陳代謝を促進することを目的とし、この場所で現代の表現者が日本文化と出会い直し、自らの表現と伝統を結びつけることで、「未来のオーセンティック」を生み出す実験場(ラボ)として動き出します。
今回は、「中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクト」を立ち上げ、次の時代へカプセルを引き継ぐ活動を行う前田達之さんにインタビューを行い、プロジェクトの背景や取り組み、カプセルの活用に込める想いを伺いました。
インタビュアー:
・株式会社マガザン 黒田純平、武田真彦、岩崎達也
・松竹株式会社 大上遥之
まずは自己紹介をお願いします。
前田:中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクト代表の前田達之です。
中銀カプセルタワービルとの最初の出会いについて教えてください。
前田:私は建築関係の仕事をしていたわけではないのですが、小さい頃から建築を見ることが好きで、中銀カプセルタワービルのことはよく知っていました。
以前勤めていた広告関係の会社が中銀カプセルタワービルのすぐ近くにあったため、毎日のように外から眺めていたのですけど、2010年にたまたま売物件の情報を見つけたんです。
2007年に建て替えの決議がなされ、解体されるというニュースが流れていたことを覚えていたので、「なんで解体されるはずのビルの部屋が売りに出されているんだろう?」と思い、興味本位で不動産会社に連絡してみたところ、「権利関係が複雑なため、おそらく退去には時間がかかるのではないか」と返事をいただいて。
カプセルのあの丸窓から外を眺めてみたいという想いがずっとあったので、カプセルを衝動買いしてしまいました。それが最初のきっかけです。
中銀カプセルタワービル 画像提供:中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクト
長い間、カプセルタワーに魅力を感じていたのですね。
前田:そうですね。実際に入ってみるともちろん老朽化もあったのですが、カプセルの中も外も魅力的でしたね。丸窓から見る外の景色がとても幻想的で、部屋の居心地もとてもよかったので、そういったところが特に惹かれた点です。
中銀カプセルタワービルには140ものカプセルがあり、その当時利用されてる方もまだたくさんおられました。そこで出会った住人の方々が本当に一癖も二癖もあり、とても面白い方が多かったんです。
カプセルの中で住人が集まって飲み会をする「カプセル飲み会」。私たちはそれを略して「カプ飲み」と呼んでたのですが(笑)、6畳もない空間で、多い時は10人くらい集まり、カプセルについて語り合っていました。
アーティストの方やミュージシャンの方、年齢も60歳以上から20代まで、面白いコミュニティが徐々に生まれてきたんです。
そういったコミュニティが生まれる魅力的な建物をこれからも残していきたいと強く思うようになり、2014年に「中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクト」を立ち上げることになりました。
カプセルで素晴らしい出会いがあったからこそ、プロジェクトが始まったのですね!
前田:そうですね。それまでもカプセルの保存の声を個人で伝えていたことはあったのですが、やはり個人で動いてもなかなか広く一般に伝わらないので、自分たちの主張に名称をつけて活動を始めることにしました。
実はその前にも、関根隆幸さんという方がカプセルでのライフスタイルをブログで発信する「中銀カプセルタワー応援団」という取り組みをされていました。
「中銀カプセルタワー応援団」は楽しく情報を発信していたのですが、「中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクト」はもう一歩踏み込んだ形での活動だと考えています。黒川紀章さんがつくったメタボリズム思想を体現した建築なので、単純に修繕・解体ではなく、カプセルを交換することを通じて末長く残していきたいとみんなで話し合い、この活動を行ってきました。
中銀カプセルタワービルを残していくためにどうしているんですか。
前田:カプセルタワービルは「区分所有」と呼ばれる形なので、普通のマンションと一緒で、カプセルを管理する組合があり、そのオーナー(組合員)の多数決によってビルの方針が決まります。
管理組合をコントロールしていくためにもカプセルを所有する必要があり、そのため最終的に私は15個のカプセルを所有していました。他の保存を希望するオーナーのなかにも複数個カプセルを所有している人もおられました。
一般的にみられる建物の保存活動は、公共施設のものが多いと思います。一方でカプセルタワービルは私有物、そして区分所有というような複雑なシステムの中での保存活動でした。
難しいシステムのなかで、苦労が多かったと想像します。しかし最終的にはカプセルの解体が決定されるわけですが、その背景にはどのようなことがありましたか?
前田:ビルの保存を決定するまでの議決権を持つことができないなか、コロナの影響が大きかったと思います。
カプセルのオーナーには事業をされている方が多く、コロナ禍の大変な状況でカプセルを売却される方が増え、カプセル保存派のオーナーが減ってしまったことが一つの理由になるかと思います。
そのような状況で、建物自体は残すことが難しい流れになりました。
そこで土地の所有者と管理組合の間で今後カプセルをどのように保存するかを交渉した際、ビルを解体したあとにカプセルを複数個保存し、美術館などで活用することを打診しました。
そのような経緯で、今回のSHUTLのようにカプセルを新たな形で活用することになりました。
解体が決まったときは、複雑な気持ちでしたか?
前田:そうですね。オーナーのなかでも温度差があって、「何がなんでもこの建物を残したい」「カプセルから出たくない」という人もいれば、状況を理解して「これからカプセルにとって良い策を考えたい」という人もいましたので、その議論を取りまとめることがとても大変でした。
私自身も建物を保存したい気持ちで取り組んでいましたが、管理組合の役員という立場もあり、カプセルにとってベストな形に進めていきたいと思いながら話をまとめていき、解体へと至りました。
解体前のオリジナルカプセル 画像提供:『中銀カプセルタワービル 最後の記録』
カプセルの可能性を広げる、現在の取り組み
解体から現在までの取り組みについて教えてください。
前田:2022年の4月から10月まで解体を行い、後半の3ヶ月でカプセルを外し、23基のカプセルを救出することができました。
カプセルと向き合うなかで、改めてカプセルの可能性に気づくことが多くありました。現代のライフスタイルである「ノマド」、「2拠点居住」、特にコロナが起こったことによって籠って仕事をする「リモートワーク」には非常に便利な空間だと思います。
建物はなくなってしまいましたが、中銀カプセルタワービルが体現するメタボリズムの思想やコンセプトを次の世代に伝えるために、カプセルを救出しました。
時代を予言しているような建物ですね。
前田:本当にそうですね、50年は早かったです!
解体の期間にも苦労はありましたか?
前田:そうですね。カプセルを譲渡し活用していくことは決まったのですが、これまでカプセルを外したことがなかったため、実はカプセルの救出も100%保証されていたわけではなかったんです。解体業者さんから「成功する確約はできない」と言われていました。
カプセルを外してみるまでどうなるかわからなかったのですが、解体業者さんの尽力もあり、一つ目のカプセルが無事に取り外しできた時には本当に安堵したことを覚えています。
解体される中銀カプセルタワービル 画像提供:中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクト
カプセル解体のニュースは大きな話題になりましたね。多くの反響がありましたか?
前田:解体中からクラウドファンディングやメディアで伝えていたなかで、200件以上の問い合わせをいただきました。
今年4月にヨドコウさんのニュース、そして松竹さんのSHUTLが最初の情報公開でした。その後、サンフランシスコのMOMAのニュースも発表され、カプセルが日本そして世界に広がっていっていることをお知らせできました。
海外からの問い合わせは、美術館での活用が中心です。エリアの偏りもなく、アメリカ、中米、ヨーロッパ、中東、アジアの美術館に届けることで、世界中の方にカプセルを体験してもらうことになるでしょうね。
SHUTLでカプセルを活用する意義
SHUTLでは銀座にカプセルが戻ってくることになりますね。
前田:やはり元々が銀座というビジネスの街で、ビジネスマンのセカンドハウスとして機能していたことが背景にありますので、この銀座という土地にカプセルがあることは重要だと思っています。
また、住人がカプセルでアートイベントを企画していたこと、アーティストとの交流や映画の撮影などで当時から使われていましたので、SHUTLにおいて新しいアートスペースとしてカプセルを活用することはとても合っていると思います。
一般的に、建物の保存活動に携わる方は建築に携わる方が多い印象ですが、カプセルにおいてはクリエイターやアーティストが盛り上げてくれています。そのことも、アートとカプセルが良い関係であると感じる理由です。
中銀カプセルタワービルでは、個人個人がカプセルで区切られていながらも、全体が緩やかにつながっていました。そのような人と人との関係性を生み出してきたカプセルの活用が、東銀座にどのような影響を与えてくれるか、本当に楽しみです。
今回SHUTLでは2基のカプセル、「オリジナル」と「スケルトン」をインストールしますが、2つのタイプのカプセルを一度に体験できるスペースは他にありません。
そして、カプセルタワービルがあった場所ではできなかったアートやカルチャーの発信を、この東銀座の地で実現し、文化を育てていただけたら嬉しく思います。
SHUTLに収納するカプセル「オリジナル」と「スケルトン」 撮影:山根 かおり
ちなみにSHUTLで使われるカプセルは、以前はどのような形で使われていましたか?
前田:「オリジナル」のA906号室は、リノベーションされて棚がなく広いスペースでしたので、実は住人のコミュニティ・スペースとして使われていました。
ここでみんなで飲み会をしたりしていたので、住人にとっては思い出のある部屋ですね。
解体前のA906号室 画像提供:『中銀カプセルタワービル 最後の記録』
住人のカプ飲み 画像提供:中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクト
ここでカプセルの未来について語り合っていたんですね!皆さんの想いが詰まった部屋を偶然にもSHUTLで活用することになり、とても感慨深いです。
前田:またこのカプセルで住人が集まる機会ができれば良いですね。みんなカプセルに住んでいた時の思い出の品をたくさん持っているので。なかにはカプセルが雨漏りした時の音を録音した人もいますよ笑!
正直、松竹から連絡があった時どう思いましたか?ビクビクしながら連絡させてもらいましたので。
前田:メンバー内でも銀座に置きたいねという話をしていたところでしたので、とても良いお話をいただいたと思いました。
SHUTLのように、オープンな形で外からカプセルの様子を見ることができるだけでなく、アートスペースとしてしっかりと「活用」することは本当に有意義だと感じています。
中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクト、これからの活動も楽しみですね。
前田:カプセル解体の現場を追ったNHK解体キングダムでも感じましたが他の建築保存プロジェクトとは違い、解体も含めて自分自身が楽しみながらこの活動を行っています。
解体のあと、日本中そして世界中に広まっていくカプセルの姿を見ていると、その先でも生き残り、また新しい何かが生まれるんじゃないかと想像しています。
そういうことも含めて、「まだカプセルは終わらないよ」と言いたいです!
そのくらい、この建物が素晴らしいということです。
貴重なお話、本当にありがとうございました!
(PROFILE)
前田 達之
1967年東京生まれ。中銀カプセルタワービル保存・再生プロジェクト代表。建物の保存と再生を目的に、2014年にオーナーや住人とプロジェクトを結成。見学会の開催や1か月単位宿泊できるマンスリーカプセルの運営、取材や撮影のサポートをおこなう。編著書に『中銀カプセルスタイル』(2020年、草思社)や『中銀カプセルタワービル 最後の記録』(2022年、草思社)など。
「SHUTL」では、この2基のカプセルを銀座・築地エリアに戻し、再生・活用しながら、伝統と現代の新たな接続方法を生み出す実験場(ラボ)として、「未来のオーセンティック」を生み出すことをコンセプトに掲げ、挑んでいきます。
現在、カプセルを設置しアートスペースとして機能するための建築/スペースの工事を進めています。
SHUTLの最新の情報や、わたしたちがSHUTLで紹介したいと思っているさまざまなアートやカルチャーについて、引き続きこのnoteと各SNSにてお知らせしていきます!ぜひご注目ください!
WEBサイト
SNSアカウント
(SHARE)
(02)
関連するイベントと記事
Related Events And Article
関連する
イベントと記事
(Contact)
SHUTLへのお問い合わせ
Launching Authentic Futures SHUTL
SHUTLは現代の表現者が、伝統と出会い直し、時間を超えたコラボレーションを行うことで新たな表現方法を模索する創造活動の実験場です。スペース利用から、メディアへの掲載、コラボレーションまで、どうぞお気軽にお問い合わせください。