(INTERVIEW)
【SPACE RENTAL INTERVIEW】環境に溶け込む音のインテリア、 伝統を受け継ぐプロダクト「Synclee」展示会・受注会
現代の表現者が日本文化と出会い直し、自らの表現と伝統を結びつけることで、「未来のオーセンティック」を生み出す実験場(ラボ)として立ち上がったSHUTL。2023年10月のオープンから多種多様なアーティスト/クリエイターの方々に、スペースのレンタルをご活用いただいています。
今回は、2023年11月23日(木・祝)〜11月26日(日)にSHUTLをレンタルし展示会を開催していただいた、音のプロダクト『Synclee(シンクリー)』を共同制作する3社、メディアラボ「Laatry」を運営するサウンドアーティストの江島和臣さんと武田真彦さん、京仏具のおりんを製作する「南條工房」が手掛ける新しいブランド「LinNe」の南條和哉さんと南條由希子さん、京指物の木材加工技術で製作を行うアトリエ「Bench Work Tatenui」の日野健さんに、Syncleeというプロダクトについてや、SHUTLのスペースを利用した背景や展示会の感想まで、お話を伺いました。(以下、敬称略)
インタビュアー: 株式会社マガザン 黒田 純平
まずは自己紹介をお願いします。
Laatry 江島和臣、武田真彦:メディアラボ「Laatry」を運営する江島と武田です。Laatry (ラットリー) は、「伝えること、調和すること」をコンセプトにクリエイティブな実験を行うメディアラボです。 音の制作を中心に、サウンドデザイン、空間演出、プロダクト制作、ウェブサイト/アプリケーション開発、インスタレーション展示など、さまざまな媒体(メディア)を取り扱いながら活動を行っています。
普段は音楽家として、楽曲制作やライブパフォーマンス、映画・映像・舞台作品のための楽曲制作、ギャラリー・お寺・ホテルなどの空間や環境を使ったサウンドインスタレーション作品の制作も展開しています。
江島 和臣 - Strings for Harmony (2011) / NTTインターコミュニケーションセンター[ICC]
江島 和臣 & 武田 真彦 - MITATE (2019) / 薫習館(香老舗 松栄堂)
LinNe 南條和哉、南條由希子:南條工房が手がける新しいブランド「LinNe」の南條です。南條工房は創業200年近く続く京都の工房で、仏具・神具あるいは一般家庭に使われる音の出るもの、いわゆる「鳴り物」を製造しています。特に南條工房では「佐波理おりん」という、音色と余韻を良くするために銅に錫を限界まで配合した合金のおりんを、全て手作業でつくっています。今、私で7代目にあたるのですが、国内でも同じ作り方が少ないこの製法を引き継ぎ、独自の音をつくっています。そして、仏具以外の用途でもっと身近にこの音色を楽しんで欲しいという想いから、新しいブランド「LinNe」を立ち上げました。新しい商品開発を行うとともに、これまで様々なアーティストやヨガインストラクター、Appleなど企業とのコラボレーションを行っています。
Bench Work Tatenui 日野健:Bench Work Tatenuiの日野です。「Bench Work Tatenui」は、京都で修行して学んだ京指物の木材加工技術や知識をベースに、人の目と手で組み上げていく手仕上げによって作品を製作しているベンチ(長椅子)専門のアトリエです。座り、集うことでそこに生まれる場や空間に焦点をあて、心地よさを体感できる木製家具の製作と開発、提案をしています。2011年に独立し、6年が経った2017年より京都から故郷の出雲 楯縫(タテヌイ)に制作の地を移しました。楯縫はかつて、出雲大社の神事道具の盾を作っていたといわれる地域です。山陰の気候風土から刺激を受けながら製作を続けています。
ありがとうございます。3社でSyncleeの開発に至った経緯をご紹介いただけますか?
Laatry 武田真彦:2019年の春、京都にあるギャラリー「BnA Alter Museum」のレセプションパーティで南條さんに出会ったことが最初のきっかけです。南條さんが鞄に小さなおりんを付けておられて、音を聴かせてもらった時に、まっすぐに伸びる美しい音色にとても驚いたことを覚えています。
LinNe 南條和哉:たしかその頃は『LinNe』がちょうどできた年でしたので、2019年の5月ごろでしたね。
Laatry 武田真彦:Laatryとして、私の実家がかつて西陣織の織屋であったこと、江島くんがメディアアートなど先端的な芸術表現やデザインの学校であるIAMAS(情報科学芸術大学院大学)を卒業した背景から、「新しい伝統の継承」と「現代の空間への調和」をテーマに2人で新しい作品を制作し始めたタイミングでした。南條さんにお話をお聞きするなかで、「自分たちの音色を、仏具としてだけでなく現代のくらしや空間に取り入れたい」という想いに強く共感し、翌週には早速南條さんの工房にお邪魔しておりんやLinNeのB品をお借りし、実験を始めました。
Laatry 江島和臣:そうして生まれたのが、西陣織の掛け軸・風炉先屏風に南條さんの調律したおりんを空間に配置したサウンドインスタレーション作品「MITATE」(2019年)、そして、Syncleeのコンセプト・仕組み・デザインの元となる作品「CYCLEE」(2020年)です。
(INFORMATION)
CYCLEE(サイクリー)
おりん・ターンテーブル・電子音と展示空間にある環境音から構成される、サウンドインスタレーション。
音による揺らぎと空間内で組み合わされる偶然性からサウンドスケープを生み出し、リアルタイムにサウンド空間を拡張していきます。
見るひとそれぞれの時間の流れや感情、環境へささやかに影響を与える、「空間と感覚の調和」への試みであり、作品です。
タイトル:CYCLEE
作者:江島和臣、武田真彦
制作:2020年
素材:おりん、ターンテーブル、FMシンセサイザー、レコーダー、スピーカー
サイズ:可変
制作協力:LinNe(有限会社南條工房)、Delta Blues Audio
Laatry 武田真彦:CYCLEEは、ANTEROOM KYOTOをはじめ、FabCafe Kyoto、Hotel Kanra Kyoto、法然院、BnA Alter Museum、Azumi Setodaなど、様々な場所で展示を行い、2023年には、CYCLEEが香港メディアアートアワード FUTURE TENSEにおいて、BEST POPULARITY AWARD 最優秀賞を受賞しました。Syncleeの制作をするきっかけとなったBench Work Tatenuiの日野さんと出会ったのは、Kyoto Craft Exhibition DIALOGUE(以下、DIALOGUE)への出展でした。
Bench Work Tatenui 日野健:2021年のDIALOGUEでLinNeのブースにCYCLEEが展示されていて、そこから興味を持ち始めました。2022年のDIALOGUEで南條さんからLaatryの二人を紹介いただき、3社でお話しているうちに意気投合しました。最初はBench Work Tatenuiの椅子でLinNeを聴けるようなものをお話していましたが、そこから話が膨らみ、CYCLEEを色々な空間で気軽に楽しめるプロダクトを一緒に作ろうという話になり、2022年の夏から早速3社で制作にとりかかり、2023年のDIALOGUEにSyncleeのプロトタイプを出展することができました。
Synclee PR映像
Syncleeの制作にあたり、大切にしていることはありますか?
Laatry 江島和臣:「環境に溶け込む音のインテリア、 伝統を受け継ぐプロダクト」というコンセプトを掲げ、3社がそれぞれ大切にしている想いを合わせることを意識しました。
ランダムに響く美しい音色が、周囲の環境に溶け込み、空間に気づきを与えてくれる。そんなプロダクトを目指して制作を進めていきました。
Bench Work Tatenui 日野健:Syncleeを構成する様々な部材それぞれが干渉せずに、音色がちゃんと伝わりながらもくらしのなかに馴染み、ずっと使ってもらえる。そのことを意識して、設計や木材の選定を行いました。
LinNe 南條和哉:おりんの音色があるだけではこのプロダクトは生まれなかったですし、自社だけではない、共同制作だからこそ生まれたプロダクトだと感じています。それぞれが妥協することなく、完成まで持っていけたことが本当に嬉しいです。
写真協力:Kyoto Crafts Exhibition DIALOGUE
SHUTLをレンタル利用することになった経緯を教えてください。
Laatry 江島和臣:2023年の春にプロトタイプを発表し、次の展示会場として京都と東京で場所を探していたところ、SHUTLの立ち上げと運営に携わっている武田くんからSHUTLのことを聞き、展示することを決めました。SHUTLがオープンして話題になっていたこともあり、気になっていたスペースでしたし、空間としても素直にかっこいいと思えたことが理由です。
また、SHUTLのコンセプトである「伝統と現代の新たな接続方法を生み出す実験場」が、Syncleeのコンセプトである「環境に溶け込む音のインテリア、 伝統を受け継ぐプロダクト」と共鳴することも大きかったです。
SHUTLでの展示にあたり、心がけたポイントはありますか?
Bench Work Tatenui 日野健:SHUTLは2つのカプセルと、それらをつなぐ空間で構成されています。それぞれの空間の魅力を意識しながら、どのように活用できるかというところでみんなで意見しながら、展示什器の制作を行いました。
FREEDOM SPACEでの木組みを使った展示
SKELTON CAPSULEの空間に浮遊するように吊り下げた展示
SHUTLで実際に展示をした感想をお聞かせください。
LinNe 南條和哉:場としての力を強く感じましたし、カプセルの存在感や佇まいの中で展示できたことは良かったです。また、実際に空間でカプセルが持つ魅力を肌で感じ、50年前に作られたものをファンの方々が守ろうとしてきたことにも改めて感動しました。また、普段店舗やショップ、商業施設などで行っているPOPUPとは違い、新しい形で挑戦的にSyncleeの展示をすることができたことは、とても良い経験となりました。
Laatry 武田真彦:カプセルの「居住する空間」と「無機質な空間」この2つの空間があるため、展示方法としても対比して見せたことにより、空間と呼応することができたことも良かったです。環境に溶け込むことをコンセプトに置いているSyncleeとして、2つの持つ特異な空間に1つずつ配置して対比させる、とてもシンプルな展示構成ができたことにもとても満足しています。
ORIGINAL CAPSULEでの展示
ORIGINAL CAPSULEでの展示
SKELTON CAPSULEでの展示
SKELTON CAPSULEでの展示
では逆に、展示をして生まれた課題や難しかったポイントなどはありましたか?
LinNe 南條和哉:東京のSHUTLで展示できたことは大きな成果になり、普段関わりがないような東京のショップや音楽関係者、ギャラリストの方にも来て頂けたので良い機会になりましたが、集客には課題が残りました。大通りに面している場所ではないため、知らないと立ち寄らないという傾向はあったかと思います。
Laatry 江島和臣:特に、SHUTLのカプセルだけを見にくる人も多かったため、Syncleeとしての集客ができていれば良かったと感じています。カプセルを目当てに来られた来場者に対して、スペースの紹介をSyncleeのメンバーが行うこともありましたし、その点はSHUTLのチームとより協力できれば良かったなと感じました。
ただ、色々な実験を許容してくれる場所として、とても楽しむことができました。来場いただいた方に、SHUTL内の多様な空間でSyncleeに触れながら音色を体験していただき、とても良い反応をいただきました。また、展示期間中に一日だけ実験的にライブパフォーマンスをしたのですが、音・映像とSHUTLの空間との相性はとても良かったです。当日来ていただいた方からも嬉しい感想をいただきました!
意外ではありましたがSHUTLでライブや映像投影をしたのは初めてと聞きましたので、照明などもう少し工夫が必要だと感じましたが、これから音や映像の表現をする場所としても期待したいです!
写真:加藤優里
ありがとうございました!
(PROFILE)
Synclee
環境に溶け込む音のインテリア、 伝統を受け継ぐプロダクトとして。
サウンドインスタレーション作品「CYCLEE」から生まれた、京都の伝統技術とサウンド・アートが融合する新しい音のプロダクトです。
ランダムに響く美しい音色は、周囲の環境に溶け込み、空間に気づきを与えてくれます。
Syncleeは、なにげない日常の時間と空間を調和し、心地よいゆらぎを生み出す音のインテリアです。
伝統を受け継ぐプロダクトとして、京都の伝統技術とサウンドアートを掛け合わせた、新しい伝統の継承とライフスタイルを提案します。
【主な展示実績】
Kyoto Crafts Exhibition DIALOGUE 2023 出展
AMBIENT KYOTO 2023 出展
Hotel Kanra Kyoto 展示
CIBONE Brooklyn POPUP
阪急阪神不動産株式会社 モデルルーム展示 など
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