ONLINE STORE

Contact 👉

(REPORT)

【REPORT】SHUTLオープニング展示シリーズ 第3期 「伝統のメタボリズム〜見立て〜」

現代の表現者が日本文化と出会い直し、自らの表現と伝統を結びつけることで、「未来のオーセンティック」を生み出す実験場(ラボ)として誕生したSHUTL(シャトル)。JOURNALでは毎回、SHUTLにまつわる様々な記事をお届けしています。

今回のJOURNALは、SHUTLオープニング展示シリーズ 第3期「伝統のメタボリズム〜見立て〜」について、スペースマネージャーとしてキュレーションを行った黒田純平にインタビューを実施。

「見立て」というキーワードから、今回の展覧会に込めた想いと、出展アーティストの作品について伺いました。

インタビュアー  : 武田真彦

(インタビュー日時:2024年2月23日)

「見立て」に込めた想い

まず、今回の展覧会「伝統のメタボリズム〜見立て〜」のコンセプトについてお聞かせください。

黒田:伝統のメタボリズムシリーズの第3期は、芸術の分野における「見立て」という表現手法に着目しました。「見立て」とは、対象をそのまま描くのではなく、他のものになぞらえて表現する手法であり、日本の様々な芸術様式でこの技法が用いられています。扇子や手拭いを用いて様々な設定やシーンを表す落語や、石や木など自然物を置くことでそこにあるはずのない情景を想像する日本庭園における水石、盆栽などもその一例です。

本展ではそうした「見立て」の手法を用いて自らの表現を行うアーティストたちを選出しました。鑑賞者が、彼・彼女らの作品から現在形の「見立て」を発見し、鑑賞者自身の想像の余白と可能性に気づくことを期待しています。

今回の出展作家を選んだポイントはありますか?

黒田:今回は、さまざまな視点から広く「見立て」として作品を捉えることのできるアーティストをキュレーションしました。彫刻作品などは「見立て」の表現に最も近しい関係性を持っていると考えています。平面では、抽象的な表現やコンセプトに「見立て」が含まれていると考えた作品をピックアップしました。さらに、身体表現やストーリー自体を「見立て」て作品にする映像作品も今回ピックアップしています。

FREEDOM SPACE 展示風景 左:勝木杏吏「海染(壁掛け)」 右:佐貫絢郁「no title(数人)」

OUTER SPACE 展示風景 左:勝木杏吏「海染(置き)」 中央:石場文子「2 と 3 のあいだ(白の静物)」 右:佐貫絢郁「no title(左手)」

OUTER SPACE 展示風景 手前:勝木杏吏「華紋」

作品が空間にインストールされ、2024年2月23日より展覧会が始まりましたが、全体としてどのようなものになりましたか。

黒田:現在アートのなかでも注目されている若手のアーティストの方々に「見立て」というテーマで参加いただきましたが、それぞれのアーティスト独自の実験的な手法や解釈が空間で織り合わさり、とても見応えのある展覧会になったと感じています。

「見立て」という表現方法は非常に多種多様な使われ方をします。現代の美術作品もあらゆる箇所で「見立て」とつながっており、それは古来より続く伝統的な表現方法だと言えるのではないでしょうか。「見立て」の英訳は「Metaphor」ですが、鑑賞者自身が作品を理解することや自身の見解をもつことも、作品鑑賞の中で作品と鑑賞者の関係性における「見立て」の1つであると考えています。

本展を通して、「見立て」を知っていただくことで、今後の芸術鑑賞や日常的な部分で鑑賞者自身の豊かさが養われることを期待しています。例えば部屋に飾る置物を探したり、服を選んでいるときに自分に似合うかを考えているときの想像力に似ている感覚に近いかもしれませんね。

ありがとうございます。ではここからアーティストを一人ずつ紹介をお願いしたいと思います。

「写真の中の2次元の世界を見立てる」 石場文子

黒田:石場文子さんは様々なメディアを横断しながら制作を続けているアーティストです。近作の「2と3のあいだ」シリーズは、被写体の表面に水性ペンで一本の黒い線を描くというシンプルな操作を施した写真です。
3次元空間=写真のイリュージョンの中に突然現れる2次元の世界。最小限でありながら最大限の違和感を引き起こす彼女の行為は、写真を観る上で私たちが暗黙裏に順守しているルールそれ自体を揺さぶってきます。

今回は中銀カプセルと同じ年代に生まれたものをモチーフとして選んでいます。白い陶器経ちは当時活発な日本で多く生産され、海外へ輸出されました。いわゆるメイドインジャパンですね。作品の配置にも「見立て」を取り入れており、作品の面合わせで配置せず、中の接地面の線で合わせることで別の視点として見立てられる工夫もしています。
この作品にはモチーフにアウトラインが太く書き出されていますが、写真の上からではなく、実際のモチーフに直接書き出してから写真を取っているところです。これが「2と3のあいだ」のシリーズの醍醐味でもあるポイントです。

石場文子「2 と 3 のあいだ(白の静物)」

石場文子「three of white things」

石場文子「trace of surface #2、trace of surface #3」

(PROFILE)

石場文子 / Ayako Ishiba

1991年生まれ、兵庫県出身。愛知県立芸術大学博士前期課程美術研究科油画・版画領域修了。視覚情報から得る人間の認識の問題を追及し、被写体に黒いペンで線を描き、写真を撮る「2と3のあいだ」「2と3、もしくはそれ以外」シリーズで、視覚的な違和感を与える写真作品を制作している。近年は動画や立体作品も使い、事象や物事に対し人が無意識に受け止めていたことを改めて見つめ直し、今見ているものが何なのか問いかける。

「疑似言語でストーリーを見立てる」 倉知朋之介

黒田:倉知朋之介さんは、日常生活のなかで脈略なく発生する「可笑しさ」と、それを生じさせる事物の振る舞いに着目し、映像を軸としたインスタレーションを中心に制作を行っています。

倉知さんが本展で展示する「チョコチップクッキー&ミルク」は、疑似言語や映像の特性を活かして鑑賞者にとっての物語を見立ててもらうような作品です。本人も出演しています。倉知さんは、アメリカのYouTuberや、海外映画の身振り手振りをマネながら過剰な表現でコミカルにストーリーを制作しています。この見立てというテーマでは、一見作品の意図までを掴むのが難しいがその姿勢を受け入れたまま自身でストーリーを見立ててみることが正解です。スケルトンカプセル内を映像部屋として大胆に使った構成も見どころです。

倉知朋之介「チョコチップクッキー&ミルク/ chocolate chip cookie & milk」

倉知朋之介「チョコチップクッキー&ミルク/ chocolate chip cookie & milk」

倉知朋之介「チョコチップクッキー&ミルク/ chocolate chip cookie & milk」

(PROFILE)

倉知朋之介 / Tomonosuke Kurachi

1997年愛知県生まれ。東京藝術大学映像研究科メディア映像専攻在籍。倉知朋之介は、日常生活のなかで脈略なく発生する「可笑しさ」と、それを生じさせる事物の振る舞いに着目し、映を軸としたインスタレーションを中心に制作を行う

「鉄と青から風景を見立てる」勝木杏吏

黒田:金属彫刻家 勝木杏吏さんは、独自の手法で鉄を藍色に輝かせた〝藍染めシリーズ〟や、野外彫刻を手掛けています。

勝木さんの代表的な作品〝藍染めシリーズ〟は、鉄自体がもっている藍色のポテンシャルを強く引き出されたものです。ランダム性のある楕円の形は、まるで水滴にように見立てられその藍色は深海奥底のような深みを感じます。まるで深海や、宇宙など簡単には到達できない場所をここに顕現させたように見立てられます。

今回、屋外には彫刻作品「華紋」を展示しています。花びらのように見える表面は磨かれたステンレスで視点を変えながら映り込む景色を花びらに集めます。庭園のように見立てられたアウタースペースもお楽しみいただければ幸いです。

勝木杏吏「海染(置き)」

勝木杏吏「海染(壁掛け)」

勝木杏吏「華紋」

(PROFILE)

勝木杏吏 | Anri Katsuki

勝木杏吏は多摩美術大学美術学部彫刻学科卒業。同大学院美術研究科博士前期課程彫刻専攻修了。個展やグループ展を行うほか、野外彫刻や室内彫刻を手掛けている。 近年は鉄を独自の手法で青くした〝藍染シリーズ〟を展開している。

「シェイプからモチーフを見立てる」佐貫絢郁

黒田:佐貫絢郁さんは、特定の人物や風景の「描写」や「記録」ではなく、人物や風景の構成要素を削ぎ落とすことで、それらを誰でも/どこでもありうる多態性な対象に変化させることを試み、個別性/普遍性、具体性/抽象性の壁を乗り越える方法(ルール)を探っています。

佐貫さんの描く絵画には、岩絵具でドローイングが描き出されています。その絵画にモチーフはもちろん存在しますが、一見してどんな絵なのかはわからないかと思います。しかしその線や形を追って、自身で視える絵を導きだすことも絵画鑑賞の楽しみであり、それは「見立て」による行為なのです。

佐貫絢郁「no title(数人)」

佐貫絢郁「no title(的形)」

佐貫絢郁「no title(左手)」

(PROFILE)

佐貫絢郁 | Ayaka Sanuki

佐貫絢郁は1993年静岡県生まれ。17年、京都造形芸術大学大学院修士課程表現専攻ペインティング領域日本画修了。関西を拠点に作家として活動する。風景や肖像からそれら固有の要素を間引き、特定のパースペクティブを逸したイメージをつくり出す。平面を中心に、時に立体作品も制作。

「石とアクリルで重力を見立てる」 松井照太

黒田:松井照太さんは、石の自然美、重さに興味を持ち、作品の中に無加工の石をそのまま取り入れる立体作品を中心に制作しています。

制作において石を鑑賞する水石のように作品中の石がどう映るかを意識し、伝統や形式のある水石に対して現代のマテリアル(樹脂やガラス等の製品)を使い新たな角度から石を愛でています。
水石とは、床の間に置く置物として山水景を感じる見立てを行うものです。水盤という職人が制作した土台が一般的ですが、松井さんはアクリルで石の重さを感じさせない軽やかさも演出しています。

オリジナルカプセルには、彼の水石に見立てた作品が鎮座しており、それは緊張感のある“間(ま)”を感じられる空間へと昇華しています。

松井照太「F=mg(sinθ1+sinθ2) (F=support medium) #2」

松井照太「F=mg (F=support medium) “水石” #1」

(PROFILE)

松井照太 / Shota Matsui

1994年京都生まれ。京都を拠点に制作活動中。2018年京都市立芸術大学彫刻専攻卒業。石の自然美や重さに興味を持ち、作品の中に無加工の石をそのまま取り入れる立体作品を中心に制作。最近は室内での石の鑑賞を広めようと壁掛けの作品を展開。制作において、石を観賞する水石のように作品中の石がどう映るかを意識し、伝統や形式のある水石に対して現代のマテリアル(樹脂やガラス等の製品)を使い新たな角度から石を愛でる。石の重量が増すごとに支持する事が難しくなり、作品の制作難易度が上がるため、ヤップ島の石貨や秤量貨幣を参考に石の重さで作品価格を決めている。

今後の予定

では最後に、今後のSHUTLの予定を教えてください。

黒田:一旦今回の展示で、SHUTLオープニング展示シリーズ「伝統のメタボリズム」が終わります。第3期 「伝統のメタボリズム〜見立て〜」は、2024年3月17日(日)まで開催しておりますので、この機会にぜひ東銀座のSHUTLへお越しいただきたいです。

そして今後も、SHUTLは新たな企画を準備しています。引き続き「未来のオーセンティック」を発信するSHUTLから、色々なアーティストやキュレーションをご提案させていただければ幸いです!

ありがとうございました!

SHUTLオープニング展示シリーズ 第1期 「伝統のメタボリズム〜言葉と文字〜」
SHUTLオープニング展示シリーズ 第2期 「伝統のメタボリズム〜様式の変容〜」

(02)

関連するイベントと記事

Related Events And Article 合わせてこちらも

(Contact)

SHUTLへのお問い合わせ

Launching Authentic Futures SHUTL

SHUTL is a gallery for exploring new ways of connecting tradition and modernity.

SHUTLは現代の表現者が、伝統と出会い直し、時間を超えたコラボレーションを行うことで新たな表現方法を模索する創造活動の実験場です。スペース利用から、メディアへの掲載、コラボレーションまで、どうぞお気軽にお問い合わせください。

Contact 👉