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(INTERVIEW)

黒川紀章建築都市設計事務所・藤澤友博さんに聞く、メタボリズムとSHUTL(後編)

黒川紀章とSHUTLの呼応

2022年に解体された中銀カプセルタワービルのカプセルの魅力を再発見し、今の時代に即した文化を発信していく新たなアート&カルチャースペース「SHUTL(シャトル)」

建築家・黒川紀章が設計した新陳代謝をコンセプトとしたカプセル2基とそれらを格納する新たな空間を舞台に、日本文化そのものの新陳代謝の展開を目的とし、現代の表現者が日本文化と出会い直し、自らの表現と伝統を結びつけることで、「未来のオーセンティック」を生み出す実験場(ラボ)として動き出します。

今回は、黒川紀章建築都市設計事務所の藤澤友博さんのインタビュー、後編をお届けします。

黒川紀章とSHUTLがどのように呼応していくのか、そして黒川紀章建築都市設計事務所・藤澤さんの仕事の魅力について、さらに深掘りしました。

 

インタビュアー: 松竹株式会社 藤井 瑛二、松野 麗

株式会社マガザン 武田 真彦、黒田 純平、岩崎 達也

1970年から50年の時を経て、2023年にカプセルがSHUTLで新しく活用され応答されることについてどう思いますか?

藤澤:黒川は、時代の中での最先端の存在でありたいという思いが強かったと思います。
図面を手で描くのが普通の時代にIBMの新しいPCを取入れ、CADを採用したり、新素材を使ってみたり、3DCADをつかってガラス面を作ったりと、新しいものを積極的に取り入れていく姿勢がありました。
今回、取り外したカプセルをSHUTLで保管し、アートスペースとして活用していく新しいアプローチは、黒川自身もきっと好意的に思うのではないかなと感じます。
建物自体は無くなってしまいましたが、黒川自身なんとかして中銀カプセルタワービルを残したいという想いで活動していたので、中銀カプセルタワービルの一部のエッセンスが残り続けるということは、大きなことだと思います。

SHUTLでは、新しいアート表現を生み出す場所にしたいと考えているのですが、黒川紀章さんとアートとの親和性についてどのように感じておられますか?

藤澤:黒川は、いろいろなアーティストとのコラボレーションを行ってきた建築家です。寒河江市庁舎では岡本太郎氏とコラボレーションを行ったり、広島市現代美術館でも井上武吉氏の階段作品など、「建築とアートの共生」を行っていました。
「共生の思想」は、日本に由来する考えで、西洋の〇✖による2元論ではなく、黒から白にかけて様々な段階のグレーがあり、その中間領域の多様性を評価することに主旨があると考えています。建築とアートという組合せにおいても、その多様性と「何を対極とするのか」ということに面白さがあると思います。
今回のSHUTLでは、カプセルと何を対峙させるのかという設定が面白いですし、現代版の共生の思想に繋がるものとも考えられます。

黒川紀章さんの設計思想と重なる部分があることは、とても嬉しいですね。

藤澤:SHUTLでは、再現されたオリジナルと内装を取り払ったスケルトンという2つのカプセルがありますよね。
オリジナルには、わずか10平米のなかに、人が生活するにおいて必要な全ての機能が含まれています。黒川紀章の想い全てが凝縮しているといっても良いかもしれません。
一方、スケルトンでは、例えば一人のアーティストが何か新しい表現を入れ込み、オリジナルと対峙する。
そのような光景を想像すると、とても面白いカプセルの活用方法だと思いますね。

SHUTL 2基のカプセル

SHUTLのニュースについて何か周囲からリアクションはありましたか?

藤澤:そうですね、やはり中銀カプセルタワービルの存在した銀座という場所で見られるということがとても貴重なことだと言われます。国内でカプセルを見られる場所が限られているなか、銀座の街中で見ることができるということが、面白いと感じてもらっているようです。
希望としては、SHUTLでは、新しいことをつくり出していこうというスタート地点と理解しているので、美術館に寄贈されたカプセルではできないこと(カプセルを活用した表現)を見てみたいですね。完成した作品として保管されるカプセルと異なり、次への1歩を押し進められるのが、ここの一つのアドバンテージだと思います。

私たちもカプセルを取り扱いながら、カプセルのデザインの奥深さや黒川紀章さんの美学を日々目の当たりにしているので、しっかりと活用していきたいと改めて思います。

藤澤:いまの人にとっては、カプセルは貴重な建築としてのイメージを持たれているかもしれません。
しかし、1970年に中銀カプセルタワービルが建てられた当時、周囲には木造の2階建ほどの建物が並んでいたのです。そこに、突如変わったデザインの建物が現れ、その内部には10平米ほどの狭小空間があり・・・
黒川紀章の建築とはいえ、あの当時カプセルを購入した方の勇気や意気込みは本当にすごいなぁと。笑

確かに! サザエさんのなかに出てくるような風景に、あのビルが建てられたんですね。

藤澤:当時の写真を見てみると、人力車が何台か走っているなかにカプセルタワーが映っているものもありました!

えぇーっ!

藤澤:人力車があった時代なので、着物を着ている方が多く、それはもうとんでもないコントラストでしたよ。あの建物だけが時代の先を行ってしまっているような感覚です。

過去から見た未来、未来から見た過去、その異なる視点がそこにはあり、当時は今以上に相当な違和感があったんでしょうね!

藤澤:異物を見るような感覚だったと思いますが、時代が追いついてくると「すごい建物なんだ」と感じたと思いますよ。そこに住んだ方もそうですし、それを許してくれたクライアントの方は本当に素晴らしいと思います。

竣工当時の中銀カプセルタワービル 提供:黒川紀章建築都市設計事務所

藤澤さん自身の背景と、黒川紀章の魅力

事務所の今後のプロジェクトについてもお聞かせください。

藤澤:そうですね、まずは今年の3月、広島市現代美術館がリニューアルオープンしました。
あとは7月にオープンした福井県立恐竜博物館も、弊社で設計を行いました。
またカプセルについても、これからの時代に求められるものを私たちとして考えていきたいと思っています。

広島市現代美術館 提供:黒川紀章建築都市設計事務所

福井県立恐竜博物館 提供:三井笑奈(川澄・小林研二写真事務所)

黒川紀章さんの残した偉大なものを引き継がれていると思うのですが、藤澤さん個人にとって、このお仕事のやりがいは、どのようなところにありますか?

藤澤:過去の作品の改修や増築に際し、その当時黒川紀章が行ったデザインにどう対峙するかが一番やりがいを感じるところです。
例えば、ゴッホ美術館では、黒川ウイング(棟)の一部で使用されていないスペースに建物を増築し、有効活用したいという依頼でした。
そのような時にいつも出てくるのは、黒川と全く同じものをつくるのか、あるいはコントラストとして全く別のものを作るか、もしくは中立で透明なものを作り存在感をなくしていくか、等の視点です。
ゴッホ美術館は、もともとソリッドな建物であるため増築棟の素材はガラスにてコントラストを表し、そして既存建物との間に少しだけスペースを設けることで既存棟と増築棟の違いを明示し、連続させつつ、コントラストをつけるというアイデアで進めました。
このような形で、「巨匠とのやり取り」をすることがこの仕事の魅力だと思います。

ゴッホ美術館 提供:黒川紀章建築都市設計事務所

黒川紀章さんへのリスペクトに加え、そこにどう解釈し自分を投影するかということを行っておられるのですね。藤澤さんはどのような経緯で入社されたのですか?

藤澤:日本で設計事務所に就職したあと渡英し、イギリスで建築の大学院へいき、現地の設計事務所で働きました。イギリスでは、昔のものを大事にして、そこに新しいものを付け加えていくという考え方が面白かったです。例えばレンガにステンレスを組み合わせるなど、古いものに新しいものをぶつけていく、という部分に醍醐味がありました。そこで海外の楽しさを味わいましたね。
日本に戻ってきた際、海外の仕事がありデザインとしても特徴のある会社で働きたいと思っていたため、黒川事務所を選びました。
ただ、実際に入社してみると、外から見えている内容とはとても異なり、黒川紀章のすごさをほとんど理解出来ていなかったと感じました。
黒川紀章の本を読んでいると、単に建物のデザインだけでなく、書かれている書物がベースとなって計画されていることが良く分かり、思想の奥深さを感じることが多いです。

黒川紀章さんの取り組みは、最先端の技術から茶室に至るまで、対局のものを取り扱っているように感じます。

藤澤:そうですね。「共生」という言葉に込められているように、二元論にせよ何にせよ2つのものがあったとき、その幅が広い方がさまざまな段階を取ることができると捉えることができます。
新しいものがあれば古いもの、スケールの大きいものがあれば小さいもの。そういった対局のものの間で、どのような表現を行うかということを黒川は考えていたと思います。

なるほど。SHUTLでこれから新しい表現を模索していく現代のアーティストの方々とも通じる姿勢だと感じます。今回は大変貴重なお話、誠にありがとうございました。

(PROFILE)

藤澤 友博

東京都生まれ
早稲田大学理工学部建築学科卒業
University of East London M.Arch修了
2011年黒川紀章建築都市設計事務所入社
現在、同事務所設計部課長

「SHUTL」では、黒川紀章のカプセルを銀座・築地エリアに戻し、再生・活用しながら、伝統と現代の新たな接続方法を生み出す実験場(ラボ)として、「未来のオーセンティック」を生み出すことをコンセプトに掲げ、挑んでいきます。

SHUTLのグランドオープンが2023年10月7日(土)に決定し、第1回自主企画の開催も決定いたしました。

SHUTLの最新の情報や、わたしたちがSHUTLで紹介したいと思っているさまざまなアートやカルチャーについて、引き続きこのJOURNALと各SNSにてお知らせしていきます!ぜひご注目ください! 

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SHUTLは現代の表現者が、伝統と出会い直し、時間を超えたコラボレーションを行うことで新たな表現方法を模索する創造活動の実験場です。スペース利用から、メディアへの掲載、コラボレーションまで、どうぞお気軽にお問い合わせください。

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