(INTERVIEW)
デザイナー三重野龍が考える、独自の表現の原点とSHUTLへの応答
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デザイナー三重野龍の原点
2022年に解体された中銀カプセルタワービルのカプセルの魅力を再発見し、今の時代に即した文化を発信していく新たなアート&カルチャースペース「SHUTL(シャトル)」。
建築家・黒川紀章が設計した新陳代謝をコンセプトとしたカプセル2基とそれらを格納する新たな空間を舞台に、日本文化そのものの新陳代謝の展開を目的とし、現代の表現者が日本文化と出会い直し、自らの表現と伝統を結びつけることで、「未来のオーセンティック」を生み出す実験場(ラボ)として動き出します。
今回は、SHUTLのロゴをデザインし、展示シリーズ第1期「伝統のメタボリズム〜言葉と文字〜」展にも出展作家として参加いただく三重野龍さんにインタビューを行い、彼が生み出す独自のグラフィックはどのように生まれたか、そしてSHUTLのロゴデザインの制作秘話を伺いました。
インタビュアー : 株式会社マガザン 武田 真彦、黒田 純平
まずは自己紹介をお願いします。
三重野:三重野龍です。2011年に京都精華大学を卒業して、そのまま特に就職せず、比叡山のロープウェイでアルバイトをしながらグラフィックデザインを始めました。
学生の時、少しだけ教授に仕事を振ってもらったことがあって、それがグラフィックデザインの最初の仕事でした。アニメ監督の小池健さんの映画「REDLINE」の特集の本から始まって、卒業後に京都精華大学本館のサイン計画、マンガミュージアムでの赤塚不二夫の展覧会のフライヤーデザインもやらせてもらいました。
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京都国際マンガミュージアム 赤塚不二夫マンガ大学展 フライヤーデザイン
学生時代からグラフィックの仕事をされていたんですね。三重野さんの仕事で一番知られているのは京都のオルタナティブギャラリー「VOU/棒」のグラフィックデザインだと思うのですが、VOUのお仕事はどのように始まったのですか?
三重野:VOUの仕事は長いですね。VOUの川良くんとは、彼がCOCON KARASUMAのギャラリー「kara-S(カラス)」で働きはじめた時からです。そこでよく仕事を振ってもらい、仲良くなりました。
kara-Sとは別で、彼がお店を持たないレーベルのような形でVOUをスタートさせたとは聞いていて、「そんなんやってるんや」と思ってたら、「ブランドをつくりたい」と言われたんです。
最初はよくわからず、「ブランド?うん、頑張ってヨォ」と言っていたのですが、彼がVOUの店舗をつくると決めた時に実際にロゴデザインを依頼してくれたのが、VOUの最初の仕事でしたね。
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VOU ロゴデザイン
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VOU ポスターデザイン
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そうだったんですね。最初にVOUのお店があった場所は、マガザンキョウトの前身となる雑貨屋「Buddy tools」があったところでしたよね!
三重野:そうやったね!VOUもマガザンも色々と繋がりがあって、マガザンキョウトでPOPUPもやりましたね。
そうですよね。VOUではどのような関わり方で仕事をされてるんですか?
三重野:僕は全然内部のことには触れてなくて、本当はブランディングのこととか関わった方がいいのかなって思いますけど。
それは意外ですね。VOUだけでものすごい数のデザインやキャラクターを輩出していますよね。
三重野:今ステッカーを作っているんですけど、これまでのVOUのデザインを全部一つのアートボードに出してみたんです。そしたらもうとんでもない量になってしまって、「こんなに作ったんだ・・・」とちょっと引いてしまいました。ボツ案もたくさんありますよ。ステッカーは第一弾・第二弾合わせて53種あります。今度それを全て出そうっていう話になってます。
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三重野龍がデザインしたVOUのステッカーたち
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すごい量! そう思うと、VOUとの活動は改めて長いですね。
三重野:今思い返すと、始まったのが2015年ごろで、個人的にそのころから良い時期に入って盛り上がってきたと感じます。
自分のワークスを見返していても、その時期に今の活動に繋がる良いものができたという実感があるので、何かつかみ始めてきたタイミングではありましたね。明らかにデザインの質が変わり、クライアントの幅が広がりました。
なるほど、その時期から大きな仕事の依頼も届くようになったのですか?
三重野:そうですね、その時期にイギリスの代理店からお話をもらって、上海マラソンのNIKEのポスターの依頼を受けました。
あとは、CEKAIとその頃から仕事をすることが多くなりました。初めて仕事をしたのがPOLAのCMのキャッチフレーズの制作でした。そこから東京オリンピックの仕事に繋がっていきましたね。
今までで大変だった仕事はありますか?
三重野:仕事は全て一人でやっているので、情報量・物量の多いものは大変ですね。
例えば東京オリンピックでは、全てのアルファベットを一からつくったので、結構大変でした。
ちなみに、SHUTLも・・・結構大変でした!
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ほんとすいません、ありがとうございます! 三重野さんにはプロジェクトが立ち上がった当初のカプセル視察の段階から参加いただいてましたね。プロジェクトのコンセプトやブランディングイメージを咀嚼していただき、本当にたくさんのロゴの表現を提案いただきました。
三重野:どんどん広げていったイメージをスッとロゴに落とし込むことができて、しっかりやったなぁと思います!
どの提案も本当に良くて、最後まで悩みました。
三重野:最終的に、いいものができましたよね。
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SHUTL ロゴ
後ほど改めて、SHUTLのロゴについて詳しくお伺いします。そのほか三重野さんのお仕事で特徴的なのは、展覧会のフライヤーデザインが多いですよね。
三重野:そうですね、知り合いの京都のアーティストやキュレーターから依頼をもらうことが多いです。
ローカルのアートシーンと深く長く繋がっていますよね。ローカルの魅力について、三重野さんはどう思われますか?
三重野:大学から京都に住み始め、今で15〜6年。京都にいる理由もよく聞かれるんですが、あんまり理由がはっきりとしていないし、どちらかというとちょっとダサい理由だったりします。
就職活動もせず、デザイン事務所のインターンやアルバイトに行く勇気もなく、なぁなぁで残ったという感じです。半年ぐらい実家に帰ったこともあって、京都精華大学の仕事もしながらダラダラしてたんですが、「やっぱ実家嫌やな」って思って。友達とシェアハウスする形で京都に戻ってきました。
ローカルの魅力は、「気楽さ」かなぁ。ゆるく、自分のやりたいことを煮詰めていく方向に向いている感じがします。
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展覧会「The ghost in the room」フライヤーデザイン
今の流行やトレンドもチェックしていますか?
三重野:あまりデザインの本とかも買わないタイプで、流行とかはあまり見てないですけど、同世代のデザイナーはInstagramとかでチェックしていて、「おぉ〜かっこいいなぁ」とか思いながら見てます。
三重野さんのデザインのルーツはありますか?
三重野:子供の時から生き物が好きで、虫とか魚とか動物の柄から影響を受けています。
あとは、子供の頃に好きだったものも影響は大きいですね。ポケモンとかデジモンのゲーム系も好きでしたし。
ちょうどこの間、「SHUKYU Magazine」を買ったんですけど、そこにJリーグの最初のユニフォームとかキャラクター、グッズの特集があって。めちゃめちゃ影響を受けてると思いますね。Jリーグのアイスに付いているホログラムのステッカーがあったんですけど、めっちゃ物欲を惹くあの感じが好きです。
ちょっと奇妙だけど、最終的にポップに出来ていて、手に取りたい、欲しいと駆り立てられる。そういうところはロゴやフライヤーを作る時に意識していることです。ちょっとこれ欲しくなってしまう、ポッケに入れて持って帰りたくなる、そういうものを目指しています。
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三重野龍のデザイン
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三重野さんは最近ではデザイナーとしてだけでなく、アーティストとしても活動されていますね。
三重野:自分の中でその線引きはあまりなく、アーティストという意識はなくやっている感じですが、作品を作るのはいつも大変ですね。
ロームシアター京都で行ったバンドの空間現代とのパフォーマンスでは、プロジェクションで映像のように時間をつくりましたが、自分の中では「静止画の連続」というイメージでした。空間現代とは、練習で曲ができていく様子を見ながら自分の画像を共有し、進めていきました。
その時にも思いましたが、自分から表現を出すというのはあまり得意ではなく、リアクションをしていくという形が得意ですね。そのあたりは、自分はデザイナーだと思いますね。
それは意外ですね。三重野さんは自分の表現を出していくことが得意なんだと思っていました! デザイン周りの人から「三重野さんタイプ」というワードが出るんですが、アーティスト寄りの自発的な表現をするタイプを指すときに使われているんですよ。
三重野:それは「デザイナーの中では」ということだと思いますね。あくまでもデザイナーの中に自分はいるんだなぁと感じます。
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空間現代×三重野龍『汽』 Photo: Yoshikazu Inoue
三重野龍が考える、SHUTLへの応答
次にSHUTLについてお聞きしたいと思います。最初にSHUTLの依頼を受けた時、どう思いましたか?
三重野:正直最初はよくわからなかったですね。場所がどんなものになるのか、カプセルをどうやって使うのか、これからという段階でしたから。
建築イメージやカプセルの活用法を模索している段階での相談でしたからね。まずみんなでカプセルの視察に行ったわけですが、実際にカプセルを見てどう思われましたか?
三重野:実はあんまり中銀カプセルタワービルのことを詳しく知らなかったのですが、やはり実際に見たときは面白かったですね。特にカプセルの質感がすごく印象に残りました。
ロゴをつくるにあたって、意識されたことはありましたか?
三重野:最初にSHUTLについて話を聞いたとき、「伝統と現代の新たな接続方法を生み出す実験場」というコンセプトや「個人の自由」「移動」「伝統の継承」というキーワードが掲げられていたので、なにかとても壮大なイメージで受け止めていたんです。でもつくりながら考えていったら、意外とミニマムな営みとして捉えることができると思ったんです。普通のことを確実にやっていこうということでもあるなと。そこからは落ち着いてデザインを進めることができました。
提案いただいたデザインを見返しても、最初はメタボリズムの方に強く引っ張られている印象で、「細胞分裂」や「再構築」をダイナミックに、少し歪な形で表現されていたのですが、最終的なデザインはすごくミニマムでシンプルになりましたね。
三重野:これは僕の頭の中でのイメージですけど、例えば自然を特集している番組で、大量のアリがザーッと歩いていたりクジラがジョアーっと力強く動いている映像の後に、地球がひとつスッと映される、みたいな感じです。
すごく想像できました! 完成するまでに本当にたくさんのデザイン案をいただきましたね。
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細胞分裂
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細胞分裂 当時の中銀カプセルタワービルのカラーを取り入れたデザイン
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解体&再利用案 カプセルの比率の長方形を分解・再構築
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解体&再利用案 浮遊し組み合わさる破片
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伝統の継承案 縦糸と横糸
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SHUTLロゴ 動きの検証
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SHUTLロゴ完成
最終的に選ばせてもらったロゴの決め手は、SHUTLのコンセプトをこのロゴを通して説明がしやすいという点でした。このロゴはどのような経緯で形を決めていきましたか?
三重野:このロゴは、メタボリズムから想起される「細胞分裂」の考え方からスタートしましたが、「分裂」するだけでなく「融合」するようにも見え、一つのロゴから色々な動きを発見することができると思い、パターンをつくりました。
ロゴのモーションもつけたいという話もあったため、ずっと動いているような、止まっていないように感じるロゴを目指しました。
ここは止まりすぎている、ここまでいくと動いて見える、というような調整をしました。
結果的に近未来感のあるロゴになったことで、SHUTLのイメージを伝える上でとても良かったと思います。ロゴのカラーにシルバーを用いたことも効果的だと感じています。
今回SHUTLでは、ロゴデザインに加え、自主企画「伝統のメタボリズム〜言葉と文字〜」において新しい作品を制作していただきます。どのような作品になるか教えてください。
三重野:ベースにしているテーマは、文章を読むのも書くのも苦手なので、その「難しさ」を何かの形で言い換えるような、形とグラフィックの組み合わせを表現したいです。
制作にご協力いただく印刷会社のサンエムカラーさんにも一緒に視察にいきましたね。
三重野:面白かったですねぇ。これまではあまりマテリアルを意識して制作していたわけではなく、むしろ一番安い印刷でもかっこいいものをつくるということを考えていました。なので今回、やったことのない素材と手法で作品制作ができることは本当に楽しみです。普段いろんな工夫をして平面の中に奥行きや質感を入れ込んでいるので、それをリアルで表現できるのはワクワクします。
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どんな作品ができるか、待ちきれません!最後に、SHUTL以外での今後の予定を教えてください。
三重野:3年くらい前から自分のグラフィックをまとめた本を制作してもらっていて、500ページほどになると思うのですが、まもなく完成する予定です。
三重野さんのアーカイブがまとめて見られるんですね。そちらも完成が楽しみです!貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。
(PROFILE)
三重野 龍
1988年生まれ、2011年京都精華大学グラフィックデザインコース卒業。
京都でフリーのグラフィックデザイナーとして活動。美術や舞台作品のロゴデザインや広報物の制作を中心に、文字を軸にしたグラフィックデザインを実践。東京や世界からもっとも注目を浴びる日本人グラフィックデザイナーの一人。
(LINKS)
「SHUTL」では、黒川紀章のカプセルを銀座・築地エリアに戻し、再生・活用しながら、伝統と現代の新たな接続方法を生み出す実験場(ラボ)として、「未来のオーセンティック」を生み出すことをコンセプトに掲げ、挑んでいきます。
2023年10月7日(土)にグランドオープンし、展示シリーズ第1期「伝統のメタボリズム〜言葉と文字〜」展の開催が2023年10月13日(金)より開催いたします!
SHUTLの最新の情報や、わたしたちがSHUTLで紹介したいと思っているさまざまなアートやカルチャーについて、引き続きこのJOURNALと各SNSにてお知らせしていきます! ぜひご注目ください!
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