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【REPORT】SHUTLオープニング展示シリーズ 第1期 「伝統のメタボリズム〜言葉と文字〜」 最果タヒ+佐々木俊 / 松田将英 / 三重野龍

2022年に解体された中銀カプセルタワービルのカプセルの魅力を再発見し、今の時代に即した文化を発信していく新たなアート&カルチャースペース「SHUTL(シャトル)」

建築家・黒川紀章が設計した新陳代謝をコンセプトとしたカプセル2基とそれらを格納する新たな空間を舞台に、日本文化そのものの新陳代謝の展開を目的とし、現代の表現者が日本文化と出会い直し、自らの表現と伝統を結びつけることで、「未来のオーセンティック」を生み出す実験場(ラボ)として2023年10月から始動しています。

今回は、2023年10月13日〜11月5日まで開催していた、SHUTLオープニング展示シリーズ 第1期 「伝統のメタボリズム〜言葉と文字〜」の展覧会レポートをお届けします。

SHUTLの幕開けとして開催されたこの企画。キュレーションを行ったSHUTLスペース・マネージャーの黒田純平に、この企画への想いと、出展作家が作品に込めた想いを伺いました。

インタビュアー  : 武田 真彦

まずは、SHUTLオープニング展示シリーズ 第1期 「伝統のメタボリズム〜言葉と文字〜」、本当にお疲れ様でした。SHUTLで行う初めての展覧会を終えて、簡単に感想や、どのような反響があったかをお聞かせください。

黒田:ありがとうございます。SHUTLの杮落としにふさわしい内容になったと思います。これも本展に参加いただいた作家さんたちの協力もしかり、キュレーション面でサポートいただいた皆様のおかげです。
個人的な感想としましては、今回の展覧会ではそれぞれ異なるジャンルのアーティストやクリエイターを選出したなかで、それがうまくSHUTLの空間や本展のコンセプトに調和し、バランスが良い展覧会になったと感じています。
反響も大きく、約3週間の会期で通算約1500人のご来場もいただき、普段東銀座エリアに馴染みのなさそうな若い世代の方などいろんな方々に本展を体験していただきました。

第1期では3組4名のアーティストに、この企画のために作品を制作いただきましたね。「詩」「デザイン」「メディアアート」とみなさん手法が違うなか、それぞれのアーティストとどのような対話がありましたか?

黒田:今回の参加作家には、本展のために新作を制作してもらいました。「言葉と文字」のキュレーションテーマに沿って、各々の分野で「伝統」の側面を問い直して現在形として提示してくださったと思っています。 
最果タヒさんと佐々木俊さんには「伝統」と「コミュニケーション」というシンプルなテーマから応答してもらいました。詩を鑑賞する体験をもとに、佐々木さんのデザインの側面から設計された空間は、立ち止まってじっくり詩を読む方も多くいらっしゃいました。最果タヒさんの詩を初めて読む方もグッと来たようで、詩集を全シリーズ買ってくださったお客様もいて、良い出会いを提供できたと実感しました。
三重野龍さんは普段はデザインワークが多い方なので、アートワークの制作発表はなかなかない機会だったと思います。僕自身、三重野さんとデザインでのお仕事はご一緒したことがありましたが、実際に展示という関わり方ができたことは新鮮な体験でした。既視感のあるマテリアルに、文字が「読めるか」「読めないか」のバランスも絶妙でした。一つだけ、三重野さんから教えてもらうまで僕も読めなかった作品もありました(笑)。
文字の輪郭だけで文字を認識していたことは僕にとっても大きな発見でした。言語の読み書きにおけるインプットの方法は、形も重要なポイントですね。
松田将英さんは、中銀カプセルタワービルの内装が復元された空間で、時間軸を絡めてキュレーションテーマに応答してくださいました。すでに内装がある空間に新たに作品をインストールするハードルもあったかと思いますが、黒川紀章が遺していった情報を手がかりに、果てしない未来へ想いを馳せることのできるインスタレーション作品へと昇華させました。
このように、空間に区切りを作ることで、キュレーションテーマを整理して伝えられるのがSHUTLの強みでもあると思います。

「詩の波紋と共鳴」 最果タヒ+佐々木俊 / Tahi Saihate + Shun Sasaki

【ステートメント】

「詩の波紋と共鳴」

最果タヒ+佐々木俊 / Tahi Saihate + Shun Sasaki

デジタルネイティブ世代の詩人として中原中也賞・現代詩花椿賞等を受賞し、詩という表現ジャンルで多彩な活動を展開する最果タヒ。そして最果タヒの展示デザインを手掛ける佐々木俊。

本展では、「伝統」と「コミュニケーション」というテーマをもとに最果が詩を執筆した。円形で構成された、窓とその先にあるコンクリートの壁にある言葉を重ね合わせることで、鑑賞者は自身で自由に組み合わせて詩を見出すことができる。

撮影:山根かおり

撮影:山根かおり

撮影:山根かおり

あなたがそこに立つことで、重なる言葉、離れる言葉。言葉は、一人の人のために生まれたものではなく、他者と共有したものだからこそ、一人きりの思いを伝えたり語ったりするにはどこか不便で、でもその「足りなさ」が、全く異なる人である目の前の誰かと、言葉を重ねすり合わせていく余白を与えているようにも思います。

詩は、そうした余白の揺らぎを、言葉の大切な要素として用いることで書かれる言葉だと私は思います。そうやって培われてきた、何人もの人の気配がする言葉は最初から詩でもあって、そしてだからこそ、私は詩を書き続けられるのだと。

今回の作品は、複数の詩が、壁と窓に書かれ、立つ場所によって重なる詩の組み合わせや重なり方が変わるもの。あなたがどこから見るかによって、言葉の呼応の仕方はきっと変わっていくように思います。書く人だけでなく、読む人によっても詩の言葉は息をして、変化をしていくのだと私は思います。

—最果タヒ

「徐行、スピード落とせ、仮歩道、高野、酒、薬」三重野龍 / Ryu Mieno

【ステートメント】

《徐行、スピード落とせ、仮歩道、高野、酒、薬 》

三重野龍 / Ryu Mieno

SHUTLのロゴデザインをはじめ、関西から日本のみならず世界にその存在感を発揮している新進気鋭のグラフィックデザイナー、三重野龍。特に文字に有機的な動きを加えた独特なタイポグラフィックが特徴的だ。

本展で三重野は、道路標識や工事用看板などの公共におけるサインや工事現場で用いられるメディアと文字の関係性に焦点を当てた作品を発表する。

文字はその形や見え方次第で、「読める」「読めない」という判断が下される。そして、その形を何らかの介在物や外的要因により変えられてしまっても文字として機能し、意味を伝えることがある。その揺らぎとバランスに着目した。

山道などにある道路標識や看板が、経年し植物に覆われている状況にヒントを得て、立体的な質感を実現するために、美術作品において特殊な印刷技術の試行錯誤の実績を有する京都の印刷会社、株式会社サンエムカラーと協働した。

本作は、歴史のなかにあり続ける文字の輪郭とありようについてのひとつの試行そしてデザイン的応答である。

協力:株式会社サンエムカラー

撮影:山根かおり

撮影:山根かおり

撮影:山根かおり

「Sperm」松田将英 / Shōei Matsuda

【ステートメント】

《Sperm》

松田将英 / Shōei Matsuda

2010年からSNS上で匿名のアーティストとして活動を開始し、近年は笑い泣きの絵文字を用いた「The Laughing Man」シリーズや、さまざまなメディアを駆使したコンセプチュアルな作品で国内外から注目を集める松田将英。本作では、中銀カプセルタワービルの竣工当時(1972年)の内装を再現したスペースでインスタレーション(空間芸術)を展開する。

《Sperm》は、かつて黒川紀章が思い描いた近未来のイメージに、インターネット以降の現代性を融合しながら、宇宙の共通言語であるバイナリーコード(2進数で表したプログラムの実行形式)をテーマとした作品で構成される。松田が参照したのは、「アレシボ・メッセージ」※1 や「ビーコン・イン・ザ・ギャラクシー」※2などの、宇宙の彼方にいるかもしれない知的生命体に地球人の存在を知らせるためのメッセージだ。

「アレシボ・メッセージ」は中銀カプセルタワービルが竣工された2年後に宇宙へ送られ、今も宇宙のはるか彼方で孤独な旅を続けている。それは黒川紀章の言葉のように、永遠に生き続ける思想のようでもある。鑑賞者はこの空間に滞在することで、過去を再現しているものでも現在にあることで更新されるという二面性に身を置きながら、常に始まり続ける果てしない未来と、そこで発され続ける現在の意思に思いを馳せるだろう。

※1 Arecibo message、1974年にアメリカ合衆国・プエルトリコにあるアレシボ電波望遠鏡の改装記念式典において宇宙に送信された電波によるメッセージ。
※2 The Beacon in the Galaxy(銀河の中のビーコン、略してBITG)、アレシボ・メッセージをアップデートした最新バージョンのメッセージ。2022年にNASAの研究チームが論文を発表した。

撮影:山根かおり

撮影:山根かおり

撮影:山根かおり

今後の自主企画

最後に、今後の自主企画の予定を教えてください。

黒田:この「伝統のメタボリズム」シリーズは3期まで予定しており、第2期が12月15日(金)よりスタートします。テーマは「様式の変容」で、古来から引き継がれている「様式」が残る日本画と陶芸というジャンルに身を置きながら、オリジナルの視点で挑戦を続ける2名のアーティストを選出しました。
素材や流派の様式といった伝統的な日本の絵画に新しい技法を加えることによって、その可能性を追求している画家の品川亮さんと、器物作品とそれらを用いたインスタレーション作品の制作を通じて工芸とアートの関わりについて言及するセラミックアーティストの野田ジャスミンさんが参加します。
本展では、「様式」が形作る伝統に自らの手法を投げかけ、まさに「伝統のメタボリズム」を体現する新進気鋭の両名がテーマに応答した作品を発表します。
第3期「見立て」は、来年2024年の2月中旬から3月中旬に開催予定です。こちらは準備中ですので詳細は近日お知らせいたします。
これ以降もチーム内でいろんなアイデアが出ているので、今後もSHUTLで行うコンテンツを楽しみにしていただけたら嬉しいです。

ありがとうございました!

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SHUTLは現代の表現者が、伝統と出会い直し、時間を超えたコラボレーションを行うことで新たな表現方法を模索する創造活動の実験場です。スペース利用から、メディアへの掲載、コラボレーションまで、どうぞお気軽にお問い合わせください。

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