(REPORT)
トークイベントREPORT「これまでとこれから」。SHUTL1周年を迎えて
オープン1周年を迎えたスペース「SHUTL(シャトル)」。伝統と現代の新たな接続方法を生み出す実験場として、オープンしてから20企画もの様々なジャンルの展覧会や販売会が行われました。2024年10月11日にSHUTL 1st ANNIVERSARY記念トークイベントを開催。この1年間の軌跡を振り返るべく、「これまでとこれから」をテーマに語り合いました。
登壇者:鈴木太一郎(松竹株式会社)、岩崎達也(株式会社マガザン)
司会進行:松本花音(株式会社マガザン)
ライティング:小倉 ちあき
(PROFILE)
鈴木太一郎
(松竹株式会社 不動産本部 上席執行役員)
不動産デベロッパーでの勤務を経て2014年に松竹入社。不動産部にて開発企画、施設管理などを担当し、18年に不動産部長、19年に執行役員に。翌年には松竹サービスネットワーク代表取締役社長に就任し、兼務。
(PROFILE)
岩崎達也
(株式会社マガザン 代表取締役)
東京で広告会社、IT会社での勤務を経て、2017年に京都でコミュニティ型の企画会社マガザンを創業。京都精華大学非常勤講師。
京都起業家大賞優秀賞等を受賞。京都発脱炭素ライフスタイル2050メンバー等。2023年、伝統文化と未来を接続するスペース SHUTLの開業において松竹株式会社のパートナーとして協働。
1年間の企画を振り返って
シャトルは、2023年10月にオープンしてから、現代の表現者が日本文化と出会い直し、自らの表現と伝統を結びつけるためのアートスペースとして機能してきましたね。
鈴木太一郎さん(以下、鈴木):松竹グループのミッション「日本文化の伝統を継承、発展させ、世界文化に貢献する。時代のニーズをとらえ、あらゆる世代に豊かで多様なコンテンツをお届けする。」に基づいて運営してきました。多様なジャンルのイベントが開催された1年になりました。
岩崎達也さん(以降、岩崎):レンタルスペースとしても、ファッションやプロダクトの展示会や受注会などにも利用されましたね。空間としての可能性も広げてくれたと思います。
特に印象に残っている企画はありますでしょうか?
鈴木:そうですね、オープニング企画シリーズ第1期「伝統のメタボリズム〜言葉と文字〜」が特に印象的でした。元々カプセルを利用することを決めた時点で、対比や意外性を重視したいと考えていました。いきなり最初の企画から、詩人の最果タヒさんが参加するなど、見事に期待を裏切ってくれたと感じています。
2023.10.13(Fri) - 2023.11.05(Sun) SHUTLオープニング展示シリーズ 第1期 「伝統のメタボリズム〜言葉と文字〜」 三重野龍《徐行、スピード落とせ、仮歩道、高野、酒、薬 》 写真:山根香
2023.10.13(Fri) - 2023.11.05(Sun) SHUTLオープニング展示シリーズ 第1期 「伝統のメタボリズム〜言葉と文字〜」 最果タヒ+佐々木俊「詩の波紋と共鳴」 写真:山根香
2023.10.13(Fri) - 2023.11.05(Sun) SHUTLオープニング展示シリーズ 第1期 「伝統のメタボリズム〜言葉と文字〜」 松田将英《Sperm》 写真:山根香
岩崎:重なっちゃいましたね(笑)。僕は他で言うと、「オキモノ展示会SATELLITE 空想アパートメント個展『FUSUFUSU』&光線個展『光を浴びて』」でしょうか。これまでの現代アートの文脈とは異なる客層の方が来場してくださいました。展示したフィギュア作品も多く旅立ってくれたようです。
日本文化を拡大解釈した、意外性のある組み合わせの企画提案だったため、提案時点ではドキドキしていました(笑)。松竹さんが面白がってくださっていい展示ができたと思います。
2024.04.26(Fri) - 2024.05.12(Sun) オキモノ展示会SATELLITE 光線個展「光を浴びて」 写真:山根香
2024.04.26(Fri) - 2024.05.12(Sun) オキモノ展示会SATELLITE 空想アパートメント個展「FUSUFUSU」 写真:山根香
1周年記念展示「SHUTL 1st ANNIVERSARY EXHIBITION『SYSTEM』」は、いかがだったでしょうか?メディアアートの領域の企画は、初めての試みでした。
鈴木:空間の使い方もユニークでした。全面ガラス張りで外から見られる空間をあえて真っ暗に塞いだりと、今までにない企画になっていました。音と画像をAIを使って組み合わせながら、スモークをたいてレーザー光との融合。空間に広がったスモークによって光が面で浮かび上がってきて、それが音楽と融合する様子には目を見張りました。細部に細やかな工夫が見られ、1周年を記念する特別な企画となりました。
岩崎:将来はテクノロジーやAIなども未来の伝統に確実に寄与していくだろうという考えの中で、良いアプローチになったと感じました。SPEKTRAとSawa Angstromのコラボレーションによる企画でしたが、今回一緒に仕事をさせていただけたことにも感謝しています。
SHUTL 1st ANNIVERSARY EXHIBITION「SYSTEM」 出展作家:SPEKTRA + Sawa Angstrom 写真:山根香
意外性のある空間だからこそ生まれた、多様なコラボレーション
幅広くジャンルを横断した新しい表現方法を、このスペースでは紹介してきたと思います。これらの企画に関して手応えなどは感じていますか?
鈴木:シャトルには、中銀カプセルタワービルの内装を復元した「オリジナル」カプセルと鉄骨剥き出しの「スケルトン」カプセルがあります。元々はオリジナルを2基置く予定でしたが、スケルトンの醸す50年間経年変化した深みが魅力的で、その場で異なる2基を置くことが決まったんですよね。意外性のあるものの対比によって、シャトルという空間に特徴が生まれました。そんな空間だからこそ、ユニークなコラボレーションが生まれやすい展示ができているのだと思います。
岩崎:シャトルという空間のポテンシャルを活用しながら、2つのカプセルをどうアレンジメントして企画していくかに取り組んだ一年。私たちとしても企画運営を通して、成果が不明確な中でものを作り上げていく過程を経験し、いろいろな可能性を見つけられ、会社としても成長できました。来年から予定されている企画にも期待が高まっています。
SHUTL オリジナルカプセル(左)スケルトンカプセル(右)写真:archipicture 遠山 功太
初めて「SHUTLプロデュース」という冠をつけた企画が2025年2月から始まります。 長谷川愛さんによる没入型インスタレーション「PARALLEL TUMMY CLINIC 」です。彼女は、AIを駆使してジェンダーや社会問題などにまつわる作品制作に取り組んでいる新進気鋭の作家です。[PARALLEL TUMMY]とは人工子宮のことで、彼女が継続的に作品のテーマにしているモチーフです。男性や妊娠することが叶わない人が子どもを産めるシステムをめぐる社会的・倫理的な側面など多様な問いを含めた内容になる予定です。この企画はシャトルという空間のための新作の創作でもあります。合わせてコラボレーターとして、劇団「贅沢貧乏」を主宰している山田由梨さんを迎えます。彼女は、「贅沢貧乏」という劇団の主宰で演劇公演の劇作・演出を手がけるほか、NHKなどでのドラマの脚本も手掛けている脚本家・演出家で、長谷川さんとの創作は初めてです。現在、実際にシャトル空間内でミーティングを重ねています。
鈴木:どんな作品になるか想像できないです。今から楽しみです!
(INFORMATION)
SHUTLプロデュース 長谷川愛 没入型インスタレーション「PARALLEL TUMMY CLINIC 」コラボレーター:山田由梨
2025.02.20(Thu) – 2025.03.17(Mon)
メタボリズム建築の代表格・黒川紀章設計「中銀カプセルタワービル」(1972年竣工)のカプセルのある空間「SHUTL」を舞台に、今から50年後の未来都市・東京を生きる人々のすがたを想像する没入型のメディア・インスタレーション。
2070年代、東京。この都市では人工子宮[PARALLEL TUMMY]の活用が一般化しており、誰でも望めば、自らのもとにあらたな生命を迎え入れることが可能になっていた。 東銀座の一角にある「PARALLEL TUMMY CLINIC」は、日々そうした人々が相談にやってくることで知られたクリニック。訪問者たちは人工子宮の検討を通じ、この都市における生き方や家族のありかたに対する自らの取捨選択から浮かび上がる、切実な欲求や不安に向き合うことになる。
出展作家:長谷川愛 コラボレーター・脚本:山田由梨(劇団「贅沢貧乏」主宰)
主催:SHUTL(松竹株式会社、株式会社マガザン) 助成:公益財団法人 全国税理士共栄会文化財団
(PROFILE)
長谷川愛
アーティスト。バイオアートやスペキュラティヴ・デザイン等の手法によって、生物学的課題や科学技術の進歩をモチーフに、現代社会に潜む諸問題を掘り出す作品を発表している。 IAMAS、RCA、MIT Media Lab卒。2023年度から慶應義塾大学理工学部准教授。MoMA、森美術館、上海当代艺术馆、国立女性美術館(NMWA)、アルスエレクトロニカなど、国内外で多数展示。著書に「20XX年の革命家になるには」
(LINKS)
(PROFILE)
山田由梨
©️Kengo Kawatsura
1992年東京生まれ。作家・演出家・俳優。立教大学在学中に「贅沢貧乏」を旗揚げ。俳優として映画・ドラマ・CMへ出演するほか、小説執筆、ドラマ脚本・監督も手がける。『フィクション・シティー』(17年)、『ミクスチュア』(19年)で岸田國士戯曲賞ノミネート。セゾン文化財団セゾン・フェローI。Abema TV「17.3 about a sex」「30までにとうるさくて」脚本。NHK「作りたい女と食べたい女」脚本。WOWOW「にんげんこわい」では脚本・監督として参加。2024年12月に贅沢貧乏による5年ぶりの新作『おわるのをまっている』をシアタートラムにて上演。
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新作制作やアーティストどうしの新たな交流も、空間を通して生まれていますね。今後松竹グループとして、一層取り組んでいきたいことはあるのでしょうか?
鈴木:場を持っていることが不動産の力でもあるので、この場を活かして、新しい取り組みに挑戦していきたいです。まさにコンセプトの通り、実験場です。松竹はずっと古典芸能など日本の伝統文化を大事にしてきた企業です。今後はこれにとどまらず、新しい切り口によって文化の領域を広げていきたいと動き始めています。
松竹らしくないものをあえてやっていくといいますか。今回の展覧会もそうですし、将来にプラスになることをやっていく体制で、新しく領域を広げられる企画を今後狙っていきたいです。
文化的な価値と、建物の歴史的な時間軸
鈴木:ちなみにシャトルだけでなく、松竹株式会社の本社も東銀座エリアにあります。シャトルがいずれは、文化的な発信拠点となって、エリアそのものの文化的な価値向上につながれば良いなと考えています。
岩崎:ワクワクしますね。松竹は京都の新京極が発祥ですよね。文化が染み込んだ街京都。マガザンも京都に本社があるためか、ミーティングを重ねる中で、文化で都市を豊かにしていこうという思いは、両チームメンバーが持っていると感じています。今後シャトルの活動が、他のエリアに飛び火するイメージなどもあるのでしょうか?
鈴木:4年前にできたエリアマネジメント推進室が、今年価値創造推進室という名前に変わりました。エリアマネジメントだけでなく、新しい価値を作り出していくという意味で今までにない文化を築いていこうとするものです。シャトルは日本文化の発掘・再評価、そして発信する実験的な企画としてスタートしましたが、今後エリアを飛び越えて、全く違う場所で文化を広げていく動きをしていくかもしれません。
岩崎:「これまでとこれから」というテーマに立ち返ってみると、今年1年で、初年度のテーマはどのくらい達成できたという手応えはありますか?
鈴木:そうですね、今年1年取り組んでみて、まだまだ取り上げられていない切り口や素材があると感じています。例えば、衣食住など日常的なものと何かを掛け合わせるなど、アイデアがあれば、可能性は無限にありそうですね。
歴史にどう応答するかということも、シャトルにとって重要なことだと感じています。黒川紀章が建築設計した中銀カプセルタワービルの2基を残し、再活用している中で、不動産には文化保存の意味もあると思います。場所性の重要性も加味しながら、箱のあり方そのものもこれから重要なトピックになると思います。
鈴木:建築って、その街の風景に馴染んであるべきものだと思うんです。最初は馴染みにくい奇抜なものでも、長い時間をかけてみれば、その建物の見え方や役割は変わっていきます。京都南座も街の景観の一部であり、松竹はそういうことを大事にしてきた会社でもあります。このエリアでも縁のある場所で、歴史を踏まえた、街に馴染んだ場所を育てていけたらいいなと思います。
岩崎:時間や歴史との向き合い方って、日々忙しい中で忘れてしまいがちです。京都の神社仏閣もそうですが、シャトルのカプセルのように、目の前に歴史を感じられるものがあれば、時間に対して謙虚になれると思うんです。
時間軸は圧倒的。当時、2024年の歌舞伎座の存在をどれだけ想像できたでしょうか。そんなふうに200年後を想像しながら、どうアイデアを発想できるか?と。手応えというより願いを持って、取り組んでいきたいなと思います。シャトルでの活動は建物の価値や表現にも繋げられると思いますし、我々としてもこれからの1年を一層楽しみにしたいと思います。
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SHUTLは現代の表現者が、伝統と出会い直し、時間を超えたコラボレーションを行うことで新たな表現方法を模索する創造活動の実験場です。スペース利用から、メディアへの掲載、コラボレーションまで、どうぞお気軽にお問い合わせください。