(INTERVIEW)
2024年の展覧会を振り返って。
2024年の「SHUTL(シャトル)」で行われた展覧会企画は、総20本以上!ユニークなコンセプトのものや話題性の高かったものなど、多方面なものが揃いました。全ての展覧会企画にキュレーションとして携わった、SHUTLスペースマネージャーの黒田純平と1年を振り返ってみます。
インタビュイー:黒田 純平(株式会社マガザン)
インタビュー:武田 真彦(株式会社マガザン)、小倉 ちあき
ライティング:小倉 ちあき
現代美術にとらわれない展覧会の数々
黒田さんは、SHUTLでの展覧会企画制作やキュレーションを担当されてきました。それまでにも、アートプランナーとしてアート関係のプロジェクトに関わっておられました。
黒田 純平さん(以下、黒田):現代美術や様々なカルチャーの文脈で、「マガザンキョウト」や京都市にあるギャラリー「haku kyoto」などで展覧会やPOPUPの企画・キュレーションを担当してきました。クリエイターやアーティスト同士が出会う機会を創出することにも力を入れています。今年SHUTLでは、現代美術というカテゴリーを飛び越えて、ポップカルチャーや音楽、キャラクター文化、ファッションなど固定のカテゴリーに収まらない幅広い領域で展覧会が行えたと思います。
年内を振り返るにあたって、展覧会をいくつか具体的にあげて紹介していきたいです。現代美術、音楽、ポップカルチャーなど幅広い内容でしたね。
黒田:そうですね。まずは、柿落としシリーズとして言葉と文字を同時進行させながら展開した、SHUTLオープニング展示シリーズ「伝統のメタボリズム」でしょうか。
「第2期『伝統のメタボリズム〜様式の変容〜』」は、品川亮さんと野田ジャスミンさんによる二人展でした。実は個人的にSHUTLが始まる前からやりたいと思っていた企画でもありました。既存の伝統技術を今の時代に反映させるという2人の作家性は、SHUTLの「伝統的なものと現代の新しい表現を結びつける実験場」というコンセプトにもマッチしていたし、二人展としてもきっと合うだろうと想像していました。
昔の陶芸作品をオマージュしていたり、日本画をコンテンポラリーの手法でアップデートしていたりするもので、昔からの文脈とどう接続していくかに取り組んだのが、「第2期『伝統のメタボリズム〜様式の変容〜』」の特徴でした。現代美術の文脈が強いものだったかと思います。
左:品川亮「Hello-Goodbye」 右:野田ジャスミン「ghost Sirius β / Blue pot」 撮影:山根香
品川亮「Hello-Goodbye」 撮影:山根香
野田ジャスミン「ghost Procyon β / ■■■■」 撮影:山根香
黒田:続いての、「第3期『伝統のメタボリズム〜見立て〜』」は、日本で活動する、若手の作家5名のアーティストが平面作品や石を使ったオブジェクト、映像作品などさまざまなメディウムを用いて、見立ての手法を活用した展覧会でした。過去最高人数のグループ展だったので、展示設営が難航したのを覚えていますね。
そもそも「見立て」とは、対象を他のものになぞらえて表現する手法で、日本独特の表現方法です。見立ての伝統的な流れを組み合わせながら、日本古来の現代美術的なアプローチとして、会場構成にも見立て要素を加えました。日本ならではのコンセプチュアルアートみたいなものとして、現代美術に近い存在なんだということが示せたと思います。
またこの展覧会は、批評家の「きりとりめでる」さんに紹介いただき、アートシーンでもSHUTLの認知度が上がるきっかけにもなったと思います。
左:勝木杏吏「海染(置き)」 中央:石場文子「2 と 3 のあいだ(白の静物)」 右:佐貫絢郁「no title(左手)」 撮影:山根香
倉知朋之介「チョコチップクッキー&ミルク/ chocolate chip cookie & milk」撮影:山根香
松井照太「F=mg(sinθ1+sinθ2) (F=support medium) #2」 撮影:山根香
黒田:1周年記念として行われた「SHUTL 1st ANNIVERSARY EXHIBITION『SYSTEM』」は、初めてのキネティックなメディアアートを取り扱った展覧会となり、僕にとっては新しいチャレンジでした。参加したSPEKTRAとSawa Angstromもキュレーションをされることが初めてだったため、どのように社会と接続していくか、共通言語を擦り合わせるところからスタートしました。彼らの作品にSHUTLのあり方やコンセプトを接続するという形で進め、最終的にはチーム全体で目線を合わせながら開催できました。
設営には1週間ほどかかりました。会期期間の1週間は短く感じ、もっと多くの人に見てもらいたいと感じるほど、大きな達成感のある企画となりました。またこういう機会を持ちたいですね。
アーティスト:SPEKTRA, Sawa Angstrom 撮影:山根香
キュレーションするにあたって
そのほかにも、ファッションブランド・furutaや新しい工芸を提案している新工芸舎、キャラクター「おしゅし」の作家・YBIなど、さまざまな領域の方々との出会いもありましたね。
photographer/Isao Hashinoki(nomadica) hair/Tsutomu Namaizawa(B.I.G.S.) makeup/Tae model/Momoka Kihara special thanks/CHIPPS COMPANY
撮影:山根香
撮影:山根香
黒田:SHUTLという空間ならではの展開だったと思います。まだ生まれたばかりのSHUTLという場所にどういう色をつけるか?、現代美術を扱うアートギャラリーが都内には多々ある中で、どうやって特色を出すのか?としたときに、文化という領域の広さを活用して、多様な未来のオーセンテックに接続できる場所になればいいのではと想定しました。
若手アーティストの応援という意味も込めて、コンセプトを軸にしたマッチングにもこだわっています。コンセプトに呼応するアーティストを組み合わせることで、アーティスト同士が刺激しあって意欲が高まると同時に、アートシーンにも注目されつつ、作品購入にもつながるような仕掛けも続けていきたいです。これからの文化を担っていく彼らが、SHUTLで展覧会をすることがモチベーションにつながるようになれば嬉しいですね。
また鑑賞者に対しては、アート鑑賞したい人や音楽を聴きたい人、キャラクターが好きな人など、幅広く受け入れることで、SHUTLが、文化体験の入り口になる役割を持てたらいいなと考えています。社会と文化をさまざまな手法で接続することを試み続けることこそが、新しいコミュニティを生み出し、持続可能な運営にもつながるのではないでしょうか。
まさに、SHUTLの土壌を耕すような1年だったように感じました。来年度からの展開も楽しみです。2025年2月からスタートする没入型インスタレーション企画も決まっていますね。
黒田:はい。「PARALLEL TUMMY CLINIC 」は、SHUTLプロデュース 長谷川愛(コラボレーター:山田由梨)没入型インスタレーション企画を、株式会社マガザンの松本花音と共に進めています。アーティストの長谷川愛さんは、バイオアートやスペキュラティヴ・デザイン等の手法によって、生物学的課題や科学技術の進歩をモチーフに、現代社会に潜む諸問題を掘り出す作品を発表している方です。また演劇的なアプローチを担うコラボレーターとして、作家・演出家・俳優・劇団 「贅沢貧乏」 主宰の山田由梨さんが作品の構想段階から参画しています。
展覧会は「人工子宮の活用が一般化された2070年代の東京」を舞台に、鑑賞者自らが東銀座のクリニックで人工子宮の利用を検討するという設定で作品は展開していきます。長谷川愛さんが継続して取り組んでいる“人工子宮(英訳:PARALLEL TUMMY)”を主題に、鑑賞者が1組ずつタイムラインの指示に従って、カプセルを含むSHUTLの空間を移動しながら展開します。
50年前、建築家の黒川紀章はカプセルを宇宙へ持って行き、世の中に変革を起こそうとしていました。その50年後の私たちがどう呼応するか。時間軸を改めて考えた時に、その後の50年を問い直す過程から、この企画は誕生しました。
妊娠は望まないけれど、子どもは欲しいという人もいます。願いを叶える技術ができることで、倫理的な問題も出てくるかと思います。変わってしまう未来に対して、鑑賞者の方々に問いを投げかけることが展覧会の大きな趣旨。「あるかもしれない未来」について、いろんな意見が言い合える機会も作れたらいいなと考えています。現代美術と舞台芸術の化学反応を、僕自身も楽しみにしています。
展示タイトル: SHUTLプロデュース 長谷川愛 没入型インスタレーション「PARALLEL TUMMY CLINIC 」コラボレーター:山田由梨 会期:2025年2月20日(木)〜3月17日(月)
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