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(REPORT)

【REPORT】SHUTL リニューアル記念トークイベント

2026年7月、東銀座のアートスペース「SHUTL」がリニューアル。

建築家・板坂留五氏を迎え、可動式の什器を取り入れた「固定されない空間」へと生まれ変わりました。

本記事では、リニューアルを記念して開催されたトークイベントの模様をお届けします。
空間設計に込められた意図や「謎かけ」のような場所の可能性、そしてこの新しい実験場が目指す未来について、登壇者たちが深く語り合った記録です。

登壇者:
板坂留五(RUI Architects)
森純平(interrobang)
鈴木太一郎(松竹株式会社 不動産本部上席執行役員)
黒田純平(SHUTLディレクター/株式会社マガザン)
モデレーター:松本花音(SHUTL広報担当)

写真:左から 森純平、鈴木太一郎、板坂留五、黒田純平、松本花音

ライティング:原田優輝 (Qonversations)
トークイベント撮影:山根香

2026年7月24日、東京・東銀座にある東劇ビル2階グリーンルームで、SHUTLのリニューアルを記念したトークイベントが開催された。登壇したのは、空間設計を手がけたRUI Architectsの板坂留五、プロジェクトのアドバイザーを務めた建築家の森純平、松竹株式会社不動産本部上席執行役員の鈴木太一郎、SHUTLディレクターの黒田純平。SHUTL広報担当で本件のプロジェクトマネジメントを担った松本花音が進行を務め、リニューアルの背景から空間設計のプロセス、SHUTLの新たなスタートを飾る企画展『継承のトランジション』まで、それぞれの視点から振り返った。

創造性を引き出す、「謎かけ」のような空間

まず、冒頭に松本からSHUTLのこれまでと、今回のリニューアルに至った経緯が説明された。2023年10月にオープンしたSHUTLは、黒川紀章が設計した中銀カプセルタワービルのカプセル2基を収めたアートスペースとして始まった。ガラス越しに見えるカプセルは空間を象徴する存在となり、東銀座の街を行き交う人が足を止めるきっかけにもなってきたという。

その後、カプセルの撤去を機に、SHUTLは約85㎡のフラットな空間として一定期間運営される。何もない空間だからこそ可能な表現が試みられる一方、運用を重ねるなかで実務的な課題も見えてきた。同時に、外から内部がよく見えるガラス張りという空間の特性上、カプセルに代わる新たな「顔」をどうつくるかという問いも浮かび上がってきた。

そこで、松竹とSHUTLの企画運営を担うマガザンによるプロジェクトチームが発足。
「伝統と現代の新たな接続方法を生み出す実験場」というコンセプトを継承しつつ、新たな空間のあり方を考えるプロジェクトが始まった。

SHUTLで展示のキュレーションを担当してきた黒田は、2つのカプセルを独立した展示室として捉え、独自のプレゼンテーションができたことがかつての強みだったと振り返る。一方、撤去後は作家のアイデアを受けながら、フラットな空間ならではの展示を試みてきたが、そのなかで壁や展示什器の必要性を感じる場面も増えていったという。

鈴木は、カプセルにはSHUTLの「顔」としての側面に加え、その内部や周囲に何を置き、どう見せるかを考える面白さがあったと振り返る。そのうえで、単に便利な設備を追加して問題を解消するだけではなく、作家やキュレーターの創造性を引き出すような、展示什器自体が「謎かけ」になるような空間をつくりたかったと語った。

アドバイザーとして加わった森は、SHUTLの特性を踏まえ、異なる方向性の未来を提示できる複数の建築家を紹介した。そのなかでマガザン内の意見が一致したのが板坂だった。

黒田は、板坂が設計したアーティストのアトリエ兼倉庫で、ギャラリーとしても使われていた「上野下スタジオ」を訪れており、用途をひとつに決め切らない空間が強く印象に残っていたという。森も、板坂であれば単に答えを提示するのではなく、チームの一員として議論に加わり、完成後も関わり続けてくれるのではないかと当時の期待感について語った。

空間の「いつも」を固定しない可動式什器

「謎かけのような空間をつくってほしい」と聞いたとき、板坂は難しい依頼だと感じたという。一般的な設計では、与えられた課題に建築家が答えを示すが、今回は使う側に「問い」を投げ返すことが求められていたからだ。

一方、使い方を決め切らず、使う人がアレンジできる余白を残すことは、板坂がこれまでも大切にしてきた姿勢だった。それ自体が主役となる建築のあり方にもあまり惹かれてこなかったという板坂は、「謎かけのような空間」というオーダーに対して強い造形で答えを示すのではなく、SHUTLに関わる人たちが共有できる問いへと置き換えることを試みた。

それが、空間デザインのコンセプト「『いつも』ってなんだっけ?」だった。ホワイトキューブをはじめとする既存の展示空間における「いつも」を疑い、アーティストやキュレーターがSHUTLと向き合うことで、新たな気づきや表現、展示方法が生まれる。そうした状況を空間のなかで具現化するための構成要素を検討していったという。

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板坂が特に意識したのは、空間の内側と外側の距離だった。きっかけのひとつが、ガラス張りの空間に在廊していると、外から常に見られているようで気が休まらないときがあるという黒田の言葉だ。通りから内部がよく見えることはSHUTLの特徴である一方、知人がいれば入りやすくても、そうでなければ近づきにくい側面もある。

板坂は、遠目から様子をうかがいながら徐々に近づける状態をつくりたいと考えた。そのためには外からの視線を遮るだけでなく、中にいる人がリラックスしている様子が外にも伝わることが重要だった。

そこで考えられたのが、天井のレールから吊り下げられた可動モジュールだ。ガラス張りという空間の特徴を活かしながら展示の支持体として機能し、壁の下に空間を残すことで内外の視線を適度に遮り、人の気配を伝える。展示、視線、居心地といった複数の課題に応えるとともに、動かし組み替えることで空間を「いつも」の状態に固定しない仕組みになっている。

ボックスを連結させたモジュールに取り付けられたパネルを外したり向きを変えたりすることで、棚、展示台など異なる状態をつくり出すことができ、複数を並べれば空間を区切る壁になる。使い方を限定せず、その場にいる人が「これは何に使えるだろう」と読み解ける寸法や形を選んだと板坂は話す。

竣工写真 撮影:山根香

森は、使いやすさだけが空間の価値ではなく、使いにくさが場所の個性や新たな表現につながる場合もあると指摘した。使う人が場所を読み解く余地を残す姿勢は、SHUTLが掲げてきた実験場としてのあり方とも重なるだろう。

松本はこの空間の可変性を、物理的な機能としてだけでなく、「主体を定めないこと」として捉えた。作家、キュレーター、鑑賞者など複数の見方を受け入れ、ひとつの答えに収まること自体へ問いを投げかけるあり方は、アートという表現にも通じると語った。

関係者に気づきをもたらす設計プロセス 

鈴木は、板坂の提案は派手に尖ったものではないが、ありそうでなかった面白さがあったと振り返る。関係者の言葉を受け止め、自分なりに咀嚼しながら答えを導こうとする誠実な姿勢が、提案や空間に表れていたという。

設計では、板坂が一方的に完成形を提示するのではなく、松竹やSHUTLのメンバーとモックアップを確認しながら、色や寸法について会話を重ねた。森は、その過程で施主、設計者、キュレーターといった立場を超え、全員が当事者として議論するチームになっていったと振り返る。

可動モジュールが床から浮いている案を見た黒田は、展覧会では壁の下部をあまり使っていないことに気づき、下を空けることで圧迫感も軽減できると感じたという。松本も、床から浮いた壁によって異なる視線の高さが意識され、子どもや車椅子を利用する人にとっての過ごしやすさや昼夜の光の違いなど、「『いつも』ってなんだっけ?」というコンセプトを通じて、後からさまざまなことに気づかされたと話す。

竣工写真 撮影:山根香

板坂はこれまでも、建築によって課題をすべて解決するのではなく、使う人に新たな気づきが生まれ、それが次の思考や行動につながる状態を目指してきた。今回のプロジェクトでも、SHUTL側のメンバーが設計プロセスから深く関わるなかで、彼ら自身にも新たな発見や気づきが生まれていたと言えるだろう。

若い世代が新たな可能性を試せる実験場に

黒田は、リニューアル後最初の企画展『継承のトランジション』の構想にあたっても、板坂が設計した新しい空間への応答を意識したという。

中銀カプセルタワービルのカプセルが置かれていたことから、その背景にあるメタボリズムの思想を受け継ぎ、「伝統の新陳代謝」を重要なテーマとしてきたSHUTL。本展でも黒田は、伝統が継承されるなかで同時に起こる「伝わること」と「変わること」を可視化することをコンセプトに据えた。
会期中も可動モジュールを動かすことで、「継承」を変わり続けるプロセスとして体験できる展示を構想し、倉敷安耶、JACKSON kaki、MULTISTANDARDの参加作家3組には、「『いつも』ってなんだっけ?」という空間コンセプトを「固定されない空間」と置き換えて伝えたという。

基本的なレイアウトは板坂と黒田が話し合って決め、大きな作品を掛ける際には、パネル同士の間隔を調整するジグを黒田が自作し、作品に合わせた新しい壁の状態を生み出した。展示を見た板坂は、設計時には想定していなかった作品の配置や空間の分け方を新鮮に感じたと語る。また、時間によって変化する光によって空間や作品の見え方が変化することにも触れ、ぜひ時間を変えて訪れてほしいと続けた。

継承のトランジション展示空間写真 撮影:山根香

鈴木は、既存の文化や価値を現代の視点から捉え直し、新たな価値へとつなげる場として、今後もSHUTLを育てていきたいと抱負を語った。さらに、隈研吾が基本設計を担当した松竹スクエアをはじめとする建築やデザインの力を今後の街づくりにも活かしていきたいと続け、そのなかでSHUTLを新たな可能性を試す実験場に位置づけ、若い世代を支える場として活かしていきたいという。

板坂がSHUTLに投げかけた「『いつも』ってなんだっけ?」という問いを手がかりに、この空間に関わる人たちがまだ見えていない使い方や価値を発見していく。その積み重ねが、SHUTLの次のフェーズを形づくっていくはずだ。

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板坂留五

RUI Architects代表/一級建築士

登壇者:

1993年兵庫県生まれ。2016年東京藝術大学卒業。2018年同大学院を修了後、店舗兼住宅「半麦ハット」をきっかけに独立、RUI Architectsを設立。Under 35 Architects exhibition 2021 Gold Medalなど受賞。主な作品に、新築住宅兼クリニック「象」(小黒由実、西澤徹夫との共同/兵庫県、2025)、新築住宅「近くと遠く」(西澤徹夫との共同/愛知県、2025)など。

Photo:Nanako Ono

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(PROFILE)

森純平

interrobang

登壇者:

1985年マレーシア生まれ。東京藝術大学建築科大学院修了。在学時より建築から時間を考え続け、舞台美術、展示、まちづくり等、状況を生み出す現場に身を置きつづける。2013年より千葉県松戸を拠点にアーティスト・イン・レジデンス「PARADISE AIR」を設立。今まで800人以上のアーティストが街に滞在している。主な活動におっとり舎(2007)、MADLABO(2011)、遠野オフキャンパス (2015-)、ラーニングをテーマとした「八戸市新美術館設計案(共同設計:西澤徹夫、浅子佳英)」(2017-)、東京藝術大学美術学部建築科助教(2017-)。たいけん美じゅつ場VIVA基本設計/ディレクター(2019-)、有楽町アートアーバニズムYAU2021 /ディレクター等、株式会社インテロバング。

Photo:Shota Tsukiyama

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鈴木太一郎

松竹株式会社不動産本部上席執行役員

登壇者:

不動産デベロッパーでの勤務を経て2014年に松竹入社。不動産部にて開発企画、施設管理などを担当し、18年に不動産部長、19年に執行役員に。翌年には松竹サービスネットワーク代表取締役社長に就任し、兼務。

(PROFILE)

黒田純平

SHUTLディレクター/株式会社マガザン

登壇者:

1994年生まれ、大阪府出身。京都精華大学芸術学部洋画コース卒業。大学では絵画制作を主に専攻し卒業後は、「場所をもたないギャラリー」keshik.jpを立ち上げ、各地で展覧会、POPUPを開催する。2021年、共同運営「TENSHADAI」を立ち上げる。
現在は東京を拠点に「SHUTL」のディレクターとして、展覧会企画を担当する。

(PROFILE)

松本花音

SHUTL広報担当

モデレーター:

芸術事業プロデューサー/PRディレクター。横浜市出身。京都・東京拠点。早稲田大学卒業後、リクルートグループにて広告制作および業務設計に従事。舞台芸術業界に転向し2011-13年「フェスティバル/トーキョー」制作/広報チーフ、14年株式会社precog。15-23年ロームシアター京都(公財京都市音楽芸術文化振興財団)広報統括、事業企画。劇場・公共空間・メディアを横断した事業を多数プロデュース。2024年独立。一般社団法人ベンチメンバー。2026年合同会社PUB設立。プロデュースにグラングリーン大阪うめきた公園「YOSETE UMEKITA」、京都市「だいごmeアート」。舞台芸術祭「秋の隕石」広報ディレクション。

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